働きながら税理士を目指すのは無理?必要な勉強時間と社会人が合格するためのコツ
税理士試験に合格するには多くの勉強時間が必要であり、働きながら合格できるか不安に思う人も多いでしょう。しかし、勉強時間を取りにくい社会人でも、税理士試験の概要を把握して計画的に勉強すれば十分に合格を見込めます。この記事では、税理士試験の制度や必要な勉強時間、働きながら税理士試験に合格するためのポイントを分かりやすく解説します。

大原 剛
公認会計士・税理士
2007年、有限責任監査法人トーマツ入所。上場企業および大企業を中心とした会計監査業務に従事。
その後、プライム市場上場企業およびグループ子会社において、経理・税務・会計システム・予算管理など、コーポレート部門全般の実務を経験。
これらの経験を踏まえ、ハルサク会計を設立。現在は、税務申告業務に加え、上場企業水準の開示・内部管理を見据えたバックオフィス業務の仕組み化や、IT企業・スタートアップを中心とした会計・税務・管理体制の構築支援を行っている。
また、日本公認会計士協会東京会において、経営委員会委員およびテクノロジー委員会委員を歴任。
実務と制度の両面から、企業の成長フェーズに応じた実践的な会計・税務支援を強みとしている。
目次
そもそも税理士試験とは
税理士試験は、税理士になるために必要な知識や能力を持っているかを判定するための試験で、毎年8月上旬に全国の会場で実施されます。税理士試験に合格するためには勉強に多くの時間を費やす必要がありますが、一定の受験資格を満たしていれば、働きながらでも合格することは可能です。
実際に働きながら合格して、第一線で活躍している税理士は数多くいます。まずは、税理士試験の概要について詳しく見ていきましょう。
税理士試験の科目
税理士試験は科目選択制度を採用しており、11科目のなかから5科目を選択して受験します。ただし、完全な自由選択ではなく、以下の条件があります。
【会計科目(必須2科目)】
- 簿記論
- 財務諸表論
【税法科目:選択必須科目(法人税法と所得税法のいずれか1科目以上)】
- 所得税法
- 法人税法
【税法科目:選択科目(残りの科目から選択)】
- 相続税法
- 国税徴収法
- 固定資産税
- 消費税法または酒税法(いずれかのみ選択可)
- 住民税または事業税(いずれかのみ選択可)
なお、税理士試験は一度に全ての科目に合格する必要はなく、一度合格した科目は永久に有効となる科目合格制度を採用しています。そのため、受験者は確保できる勉強時間に合わせて、税理士試験合格のための受験スケジュールを自由に設定できます。
また、各受験科目によってボリュームや難易度、内容が異なるのも特徴です。そのため、得意科目を選択するなど自分に合った受験科目を選択することが、働きながらでも効率よく学習して合格するためのポイントといえます。
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税理士試験の受験資格

税理士試験の11個の科目のうち、会計科目に該当する簿記論と財務諸表論には受験資格が存在せず、誰でも受験できます。しかし、そのほかの税法科目については、学識・資格・職歴上のいずれかの要件を満たす必要があります。
学識による受験資格
学識による受験資格を満たすためには、以下のいずれかの条件に該当する必要があります。
- 大学、短期大学、高等専門学校のどれかを卒業し、社会科学系列の科目1科目以上を取得している
- 大学3年生以上で、社会科学系列の科目1科目以上を含む62単位以上を履修している
- 2年制以上かつ授業実数が1,700時間以上の専門学校を修了(卒業)し、社会科学系列の科目1科目以上を取得している
- 司法試験に合格している
- 旧司法試験法の規定による司法試験の第二次試験または旧司法試験の第二次試験に合格している
- 公認会計士試験短答式試験に合格している(2006年度以降)
- 公認会計士試験短答式試験の全科目が免除されている
資格による受験資格
資格による受験資格を満たすためには、以下のいずれかの条件に該当する必要があります。
- 日商簿記検定1級に合格している
- 1983年度以降に全経簿記検定上級に合格している
- 自身が会計士補、または会計士補となる資格を取得している
職歴による受験資格
以下のいずれかの業務に2年以上従事していれば、職歴による受験資格を満たせます。
- 事業を行う個人または法人の会計に関する事務
- 銀行や保険会社、信託会社などの資金の運用・貸し付けに関する事務
- 司法書士や弁理士、行政書士、不動産鑑定士としての業務
- 税務官公署での事務、またはそのほかの官公署における国税や地方税に関する事務
- 行政機関での会計検査などに関する事務
- 公認会計士や弁護士、税理士などの業務の補助事務
参照:受験資格について|国税庁
各受験科目の標準勉強時間
働きながらでも効率的に学習するためには、各受験科目のボリュームの尺度となる標準勉強時間を知ることが鍵です。
- 簿記論:約450時間
- 財務諸表論:約450時間
- 所得税法:約600時間
- 法人税法:約600時間
- 相続税法:約400時間
- 国税徴収法:約150時間
- 固定資産税:約250時間
- 消費税法:約300時間
- 酒税法:約150時間
- 住民税:約200時間
- 事業税:約200時間
以上のように、税法科目の選択必須科目である所得税法と法人税法の標準勉強時間が多くなっています。勉強時間が長いのは、いずれもそれだけ勉強する範囲が広い科目だからです。
なお、上記の時間数は目安に過ぎず、この時間だけ勉強したからといって合格するとは限りません。実際の試験では、「どれだけ勉強したか」ではなく「どれだけ重要論点を押さえて科目内容を理解し、それを答案用紙に表現できるか」が問われます。従って、合格を左右するのは学習時間ではなく習得度だといえるでしょう。
各受験科目の合格率
次に、税理士試験の各科目の合格率について見てみましょう。合格率の高い受験科目から順に紹介します。令和7(2025)年度の合格率は以下の一覧表の通りです。
| 税理士試験の科目 | 合格率 |
|---|---|
| 財務諸表論 | 31.9% |
| 住民税 | 17.8% |
| 固定資産税 | 15.5% |
| 相続税法 | 13.8% |
| 国税徴収法 | 13.8% |
| 法人税法 | 13.5% |
| 所得税法 | 13.0% |
| 事業税 | 12.3% |
| 酒税法 | 12.2% |
| 簿記論 | 11.1% |
| 消費税法 | 10.1% |
実際の受験では、この合格率を意識しながら科目選択することは稀であり、科目そのもののボリュームや実務での重要度を考えて選ぶ人のほうが多いでしょう。
なお、酒税法や国税徴収法、事業税・住民税・固定資産税といった科目はボリュームが少ないため「ミニ税法」と呼ばれます。
働きながら勉強する人のなかには、ボリュームが少ないからという理由で科目を選ぶ人もいますが、だからといって合格しやすいとはいえません。興味を持って勉強できる教科を選んだほうがよいでしょう。
いずれの科目も合格率は低く、働きながら合格を目指すのは容易ではありません。そこで、税理士試験に理解のある会社へ転職するのも1つの手です。
参照:税理士試験|国税庁
税理士試験の平均合格年数
税理士試験の平均合格年数として、働かずに試験勉強をするのであれば2年~3年程度、働きながら合格を目指すなら5年以上が目安になるでしょう。しかし、働きながら勉強しても短期間で合格するケースはあります。要するに実際の合格年数は本人次第なのです。
ここからは、大手専門学校の税理士試験のカリキュラムと、働きながら受験する場合それぞれの平均合格年数の目安を見ていきましょう。
働かない場合の平均合格年数
大手専門学校では、1年間で2、3科目の合格を目指すカリキュラムを組んでいるため、毎年順調に受験科目に合格すれば2年間〜3年間で税理士試験を突破できる計算です。しかし、受験科目の合格率そのものが低いため、実際の平均合格年数は大手専門学校のカリキュラムより数年延びるのが一般的です。
働きながらの平均合格年数
働きながら税理士試験の勉強をする場合、多くの大手専門学校では、1年間で1つの受験科目の合格を目指すカリキュラムとなっています。そのため、就職して勉強を開始した場合、順調に1年間で1つずつ受験科目に合格すれば、5年間で税理士試験を突破できます。ただし、1科目の合格に複数年かかることも多いため、合格までの年数は5年よりも長くなることも想定しておきましょう。
なお、実際の大手専門学校でのカリキュラムは「専念用」「働きながら受験用」と設定されているわけではなく、「短期合格コース」「一発合格コース」などと、その人の受験経験や目標に合わせて選べることが一般的です。そのため、働かずに勉強に専念している人が1年に1科目ずつ受けることもある一方、働きながらでも1年で2科目勉強する人もいます。各受験科目の標準勉強時間、合格率、平均合格年を加味し、働きながら税理士試験に合格するための戦略を練りましょう。
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働きながら税理士試験の合格を目指すメリット
働きながら税理士試験の合格を目指すことは、一見すると勉強時間が確保しにくいなどデメリットが多いと思われがちです。しかし実際には、働くことが受験や日々の生活、これからのキャリアに役立つというメリットがあります。ここからは、働きながら税理士試験の勉強をするメリットについて詳しく見ていきます。
会計事務所での実務経験が受験勉強に役立つ
税理士試験は税法や会計に関する知識や理解力を問う試験ですが、特に昨今は税制改正の動向などを踏まえた内容のほか、実務色の強い問題が出題される傾向があります。実務経験があれば、そのような事例に触れる機会があるので、受験勉強に役立つというメリットがあるでしょう。
職歴に穴が開かない
正社員として仕事をしながら税理士試験に向けて勉強するメリットとして、履歴書に職歴を記載でき、転職活動ではキャリアとして認められることも挙げられます。学校を卒業してから受験勉強に専念する場合、無職または短時間のアルバイトに従事するかのどちらかです。そのため、ブランクができてしまい、再就職するときにマイナスの要素となりかねません。
収入を確保できる
働きながら勉強をするスタイルは、受験に必要な費用を自分で賄えることも大きなメリットといえます。その理由は、受験に専念する際の問題の1つが「お金」だからです。仕事を辞めて受験に専念しても、生活するのにお金はかかります。また、専門学校では授業料のほか、模試代や参考書代も必要です。
実務経験を積める
税理士になるにはさまざまな方法がありますが、税理士試験に合格するとともに実務経験を2年以上積むのが一般的な方法です。実務経験に該当するかどうかは税理士会によって判断されますが、税理士事務所や一般企業の経理であれば基本的には実務経験としてカウントされます。そのため、上記の職場で働きながら税理士試験の勉強をすれば、税理士試験に合格した後に別で実務経験を積む必要がなくなります。ただし、業務によっては実務経験として認められないケースもあるので注意が必要です。
働きながら税理士試験の合格を目指すデメリット
働きながら税理士試験の勉強をすることには数多くのメリットがあります。しかし、社会人として多くの時間を仕事に充てている以上、税理士試験の勉強に専念している大学生やフリーターに比べると、勉強に支障が出るというデメリットも同時に存在します。
勉強時間の確保が難しい
働きながら税理士試験の勉強をする場合、平日の勉強時間は3時間〜4時間の確保が精一杯でしょう。その点では、税理士試験の勉強に専念する受験生と比べて不利といえます。働きながら合格を目指す際は、自由に使える時間のほとんどを勉強に割く心積もりでいなければ、合格は難しいかもしれません。
誘惑が多い
働いていると会社の飲み会に誘われるなどの誘惑が多くなり、予定していた勉強時間が取れなくなることがあるのも、デメリットの1つです。また、誘惑に負け続けると、税理士試験に対するモチベーションが下がる恐れもあります。働きながら合格するなら、人付き合いも極力抑えなくてはなりません。
さらに、現在勤めている企業や社内環境は、ご自身の勉強時間やモチベーションに影響するため非常に重要です。本気で合格を目指すうえで転職をご希望の方は、ぜひ一度キャリアアドバイザーにご相談ください。
働きながら税理士試験に合格するためのポイント

社会人が働きながら税理士試験に合格するためには、ポイントを押さえて効率よく勉強する必要があります。具体的なポイントは、以下の通りです。
- 勉強時間を考えて学習計画を立てる
- 一度に勉強する科目を絞る
- 働きながら勉強しやすい職場を見つける
それぞれについて解説します。
勉強時間を考えて学習計画を立てる
税理士試験の勉強を働きながら始めるうえで、まずは試験当日までのおおまかなスケジュールを立てることがポイントです。試験日までの日数や勉強している科目に必要な勉強時間を目安に、平日と休日それぞれについて1日あたりの勉強時間を決めましょう。また、効率よく試験を合格するには知識のインプットだけでなく、過去問の演習によって時間配分の感覚をつかむことや、直前に知識を詰め込むことも大事です。そのため、試験の直前期には過去問の演習や知識の総復習に入れるようなスケジュールを組むとよいでしょう。
一度に勉強する科目を絞る
税理士試験では、一度合格した科目は永久に有効であり、一定期間内に5科目に合格する必要はありません。勉強する時間の取りにくい社会人の場合は、1年に勉強する科目を1科目、多くても2科目に絞り、短期間で深い知識を身に付けるのがおすすめです。
働きながら勉強しやすい職場を見つける
社会人が働きながら税理士試験の合格を目指す場合、勉強方法だけでなく自身の環境も大切です。現在残業時間の多い会社や休日の少ない会社で働いている場合は、転職することも視野に入れるとよいでしょう。税理士資格の取得を支援している会社であれば、試験日程に合わせて勤務時間を調整してもらえることもあります。
「働きながら科目合格」の実体験
働きながら簿記論と財務諸表論を1年で合格した人の体験談は、以下の通りです。
- 勤務の1時間~2時間前に、カフェで問題を解いたり、模試やミニテストの解き直しをしたりする
- 土日に授業を受講し、授業開始の30分~1時間前に行って問題を解き、受講後も1時間は残って復習する
- 直前期は専門学校の自習室が閉まるまで勉強する
- 電車に乗っている時間は理論の暗記や、小問の解答にあてる
- 模試の解き直しで時間がないときは「30分でどこまで解けるか」を試し、解いた後「重要性の高い問題をどれだけ解答できたか」を分析する
- 授業中は講義の内容になるべく疑問を持つようにし、授業後に最低1つは質問する
- 問題集の小問は最低「〇(マル)」が3個つくまで解き直し、時間がたったらさらに解き直す
- 週に1回、夕方18時から2時間だけ自分の自由時間にして、そのほかの時間は勉強に充てる
- 家族に協力してもらう(家事をお願いする、模試の解き直しのときの試験監督をやってもらう、口頭で問題を出してもらう、など)
仕事をしながらの受験勉強は、時間の確保が最重要課題です。しかし、時間だけ与えられても知識の定着や理解が不十分であれば意味がありません。そこで足りない時間を補うのが、「何が何でも合格する」という気迫と集中力です。
大事なのは、「専念するか仕事しながらか」という勉強スタイルではなく、「どれだけ合格に対して執念を燃やせるか」です。執念を燃やせば、3分、5分というスキマ時間を使って勉強するでしょう。一方、執念がなかったら、12時間与えられてもだらだらと勉強して終わり、何も身に付かないでしょう。
まとめ
働きながら税理士試験の勉強をするなら、勉強のしやすい職場で、試験当日までの学習計画をしっかりと立てて勉強に臨むようにしましょう。
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