税理士から公認会計士に転職するには?

税理士から公認会計士に転職するには?

「近い将来、税理士という仕事はなくなる」という話を耳にしたことはないでしょうか?これは、税理士が請け負う仕事は難度が高い反面、会計ソフトへの入力や計算といった作業をAI(人工知能)やRPA(ロボットによる業務自動化)が代替するようになるといわれているからです。

2014年に英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が、カール・ベネディクト・フライ研究員との共著で論文「未来の雇用ーいかに仕事はコンピューター化されていくのか?」を発表しました。
その中で、702の職業を項目ごとに分析した結果、米国の雇用者の約47%が10年後には職を失うと結論付けました。

この論文を基にした「10年後に消える職業・なくなる仕事」といったニュースが、世間で話題となっています。そして、その中には「税務申告書代行者」「簿記、会計、監査の事務員」が含まれていたことから、税理士や会計士の仕事がなくなるという噂が飛び交っているのです。

そうした背景があってか、近年は税理士試験の受験者数も減少傾向にあり、税理士業界の先行きに不安を感じて公認会計士への転職を考える税理士も増えています。
そこで、なぜ税理士から公認会計士への転職なのか、2つの職種の違い、そして実際のキャリアチェンジにおけるポイントなどについて、税理士業界の現状を交えながら紹介していきます。

マイナビ税理士編集部

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税理士から公認会計士に転職する理由とは?

現行法では、公認会計士は日本税理士連合会に届け出て税理士登録すれば、税理士試験を受けずに税理士になることができます。これを資格の「自動付与」と呼んでいます。

ところが税理士の場合は、公認会計士試験を受けずに会計士資格は得られず、資格の自動付与はありません。そのため、税理士から公認会計士になるためには、改めて公認会計士試験にチャレンジする必要があるのです。

しかし、それでも税理士から会計士へのキャリアチェンジを希望する方が増えているのには、どういう背景があるのでしょうか?

税理士を取り巻く不安要素

現在、税理士業界を取り巻いている将来への不安要素には、次のようなものがあります。

・IT化の進行
AIやRPAの台頭を待つまでもなく、現在はITの進化によって、企業が税理士に依頼する業務が減少しています。従来は税理士事務所が行っていた仕訳処理の入力業務や税務申告業務を、今は会社員がクラウド会計ソフトを使って自社で行えるようになってきているからです。

そうなると必然的に、また仮に業務依頼をするクライアントがあったとしても、その業務報酬は今よりかなり低単価になっていく可能性が高いといえます。また、インターネットの普及によって税務に関する知識が手軽にわかり、簡単な納税対策であれば誰でもできるようになってきているという現状もあります。

・中小企業の衰退
小規模な税理士事務所は、その多くが個人商店や中小・零細企業を顧客にして成り立っています。しかし、地方を中心にシャッター商店街が増え、中小企業のオーナー経営者が引退して廃業となるケースも出てきています。また、経済のグローバル化によって製造拠点を海外へ移転する企業などもあり、税理士業界では顧客の争奪戦が激化することが懸念されています。

税理士業界は二極分化する傾向にある

現在、税理士業界は大手税理士法人と中小規模の税理士事務所に二極分化しているといわれます。大手税理士法人は大手企業などを顧客に持ち、その規模や数、収益で、中小規模の税理士事務所を圧倒しています。一方、中規模の税理士事務所は、これまで顧客だった個人商店や中小企業などが減少傾向にある上に、一定の人件費や事務所の維持経費がかかるため、採算が取れなくなっています。

個人の税理士事務所の場合は、人件費などがかからず、場合によっては事務所経費もかからず、低コストで収益性を高めることもできます。しかし、経営者の高齢化によって、廃業したり、M&Aによって事業譲渡したりということも増えています。

税理士業界には中規模の税理士事務所が多く、こうした現状も税理士業界の先行きに不安を感じる税理士が増えている原因のひとつとなっています。

選ばれる税理士になるためには戦略が必要な時代に

以前は、開業すれば勝手に顧客がつくとまでいわれていた税理士業界でしたが、これからは選ばれる税理士になるための戦略が必要です。これからの税理士に求められるものは、次のような要素です。

・AIやRPAを駆使できるスキル
将来的にAIが記帳代行業務などをこなすようになったとしても、機械はエンジニアがメンテナンスをしなければ動きません。AIやRPAが「税務申告書代行者」「簿記、会計、監査の事務員」の仕事をこなしてくれるとしても、それを操作して管理する人材が必要です。税理士がそうしたスキルを持っていれば、AIの監視役となれます。そうすれば、仕事の直接の担当が変わるだけで、仕事を奪われる心配はなくなります。

・人間にしかできない業務のスキルを磨く
AIやRPAの能力には、まだまだ限界があります。着実にコミュニケーションをとってクライアントとの良好な関係を築きながら、経営に関してケース・バイ・ケースでアドバイスをするといった業務は、まだAIにはできません。その技術に磨きをかければ、AIやRPAも恐れるに足りません。

・突き抜けた専門分野を持つ
特定の分野について高い専門性を身に付けることも、これからの税理士には必要な要素です。特に「国際税務」と「相続」は、今後需要が伸びていくと予想される分野です。英語力を身に付けたり、不動産鑑定士とのダブルライセンスを狙ったりするなど、今からクライアントの信頼を獲得する努力が必要です。

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税理士と公認会計士の違いについて

税理士から公認会計士への転職が増えているのも、上記で紹介したような現状があるからです。税理士と公認会計士は、同じ会計の仕事を担っていることから混同されがちですが、それぞれに独占業務を持っており、扱う業務には違いがあります。

税理士と公認会計士のダブルライセンスを持つことによって、仕事の幅が広がる可能性が出てくるのです。
それでは、税理士と公認会計士の業務がどのように違うのか、今一度確認していきましょう。

税理士と公認会計士の業務の違い

税理士の業務の中心は、一言でいえば税務です。具体的には納税者の税務書類の作成や提出、個人事業主・法人の確定申告書類の作成や提出、税務相談などです。

これに対して公認会計士の業務の中心は、上場企業や大企業を対象にした監査証明やコンサルティングです。具体的には、経営戦略に関する財務の相談業務、決算書の作成や第三者として財務書類が適正に作られているかといった証明業務、財務書類を調整して財務に関する調査や立案をする業務などがあります。

公認会計士と税理士の比較

それでは、会計士と税理士について、いくつかのポイントを整理して比較してみましょう。

試験
税理士 会計士
受験資格がある 誰でも受験可能
科目合格制度がある 全科目同時合格が必要
合格しても会計士資格は取れない 合格すれば税理士資格も自動付与
おもなクライアント
税理士 会計士
中小企業、個人事業主、個人 上場会社や大会社、学校法人
業務
税理士 会計士
会計士業務の中心である監査業務はできない 税理士業務の中心である税務もできる

こうして比較してみると、会計士は税理士の業務をカバーできるものの、反対は難しいことがわかります。税理士と会計士とのダブルライセンスを持つ魅力は、こうしたポイントからも理解できるでしょう。

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公認会計士になるには

税理士には、公認会計士資格の自動付与はありません。公認会計士になるには、改めて公認会計士試験を受けて合格する必要があります。公認会計士になるための流れは、次のようになります。

1. 公認会計士試験に合格する
2. 最低2年間実務経験を積む
3. 実務補習を受ける
4. 修了考査に合格する
5. 日本公認会計士協会に公認会計士として登録する

つまり、正式に会計士になるまでには、最低でも2~3年かかります。また、公認会計士試験は税理士試験と異なり、年齢・性別・学歴などに関係なく、誰でも受験可能です。

公認会計士試験の受験科目

会計士試験の受験科目は、次のような内容となっています。

・必修科目
財務会計論、管理会計論、監査論、企業法、租税法

・選択科目
経営学、経済学、民法・統計学から1科目

試験は、短答式(マークシート方式)試験と論文式試験に分かれています。短答式試験は年2回、論文式試験は年1回実施されます。税理士試験のように科目合格制度はなく、短答式では一括合格を、論文式でも原則として一括合格を求められるため、広範囲の科目を一度に学ぶ必要があります。

税理士であっても会計士であっても顧客に選ばれる存在になろう!

古くから税理士業界では、2001年の税理士法改正によって生まれた税理士法人制度によって「個人事務所は淘汰される」「不況だから独立開業しても顧客がつかない」と、将来を悲観する声がありました。

現在はその不安の対象が、「AIに置き換わっているだけ」といった話も聞こえてきます。

しかし、公認会計士の資格取得を目指すならば、「もう税理士には将来性がない」といったネガティブな理由からではなく、「資格を取得することでよりクライアントの発展に寄与できるようになる」といったポジティブな理由が大切です。

税理士でいても、会計士でいても、顧客から選ばれる存在であり続けることを目指しましょう。

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