税理士から社労士への転職は現実的?ダブルライセンスの可能性

税理士から社労士への転職は現実的?ダブルライセンスの可能性

税理士試験は、難関の国家試験として知られています。しかし、大学や大学院で税法や会計学を学んでいる場合は、税理士試験の受験科目が一部免除になる制度があります。また、税務署等の国税官公署で23年以上働き、指定の研修を受けた方は、税理士試験を受けなくても税理士の資格が取得できるといった制度もあります。日本税理協会連合会によると、税理士登録者の数は2018年10月末日現在、全国で約77,725人に及びます。

しかし、将来的には会計業務にAIの導入が見込まれており、クライアントの獲得などで税理士業界の競争はすでに激化しています。そこで、同業者との差別化を図る方法のひとつとして、社会保険労務士(以下、社労士)とのダブルライセンスの獲得に関心が集まっています。

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税理士と社労士のダブルライセンスは可能?

税理士も社労士も、取得の難度は高い国家資格です。そのため、ダブルライセンスを実現できる可能性はとても低いといわれています。社労士と税理士のダブルライセンスはまったく不可能というわけではありませんが、それを実現している税理士はそう多くはないというのが現実のようです。

しかし、ダブルライセンスのある税理士の存在は、零細・中小規模の企業からすれば、とても魅力的なはずです。特に地方では、税理士が会計面だけではなく経理コンサルティング的な役割を担うことが多く、税金・労務・社会保険などの業務をワンストップで依頼できるからです。手間がかからないだけではなく、費用を抑える効果も期待されています。

税理士業界は現在、クライアント獲得のための競争が激化しています。ダブルライセンスを取得することは、他の追随を許さないポジションを得られる、とても有効な手段といえます。

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社労士ってどんな仕事をするの?

では、社労士はどんな仕事をするのか、詳しく見ていきましょう。社労士は、社会保険労務士法に基づいた国家資格者です。企業の成長には、人・モノ・金が必要とされていますが、社労士はその中で「人(人材)」に関する専門家です。企業で働く人の採用から退職まで、必要となる労働保険・社会保険に関わり、さらには年金の相談に応じるなど、業務の内容は広範囲にわたります。

社労士の具体的な業務については、1号業務・2号業務・3号業務の3種類に分けられており、この中で1号業務と2号業務が社労士の独占業務になります。

・1号業務
労働者の入社から退職までに関わる社会保険関連の届け出業務

2号業務
労働者の出退勤・賃金の台帳作成、就業規則や労使協定に関する労務管理の書類全般の作成と届け出、相談指導業務

・3号業務
人事労務に関するコンサルティング業務や紛争解決手続きの代理業務

これ以外にも、労務問題が裁判などに発展した場合、弁護士の補佐人を務める業務なども担います。

税理士と社労士の違い

税理士も社労士も、弁護士などと同様に資格取得が必要な「士業」と呼ばれる職種に属します。
士業には、それぞれ有資格者だけが担うことができる「独占業務」が存在します。社労士の独占業務についてはすでにご紹介しましたが、ここでは税理士の独占業務について確認しておきましょう。

税理士の独占業務

税理士の独占業務には、次のようなものがあります。

・税務の代行
税務官公署への申告・申請・届け出など

・税務書類の作成
確定申告書や青色申告承認申請書、不服申立書の作成など

・税務の相談
税額の計算、税法上の処理、節税対策や税効果会計といった税務全般の相談

こうした独占業務以外に、税務に付随する財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行といった財務業務も税理士は担っています。

税理士と社労士の仕事には重なる部分がある?

このように、税理士と社労士には、互いの独占業務が存在するだけではありません。税理士と社労士のあいだには、業務の棲み分けに関する覚書「税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書」があり、税理士は税理士事務所で社労士業務は行えません。反対に、社労士は年末調整業務等の税務に関することを行うことができません。ただし、独占業務の縛りを受けずに2つの職種が重なり合う、いわば「グレーゾーン」も存在します。

例えば、クライアント企業の会計業務の中で、賃金台帳作成は社労士の独占業務ですが、賃金計算を自社で行っている企業も多いので、その事務についてのアドバイスや、社労士が作成した賃金台帳による賃金会計などの事務代理は税理士が行うことが可能です。独占業務を他の職種の人が担う場合には、基本的に料金を取ることはできませんが、特に社員数の少ない零細・中小企業では手間もあまりかからないことから、賃金計算や労働保険・社会保険の手続きに関して、顧問の税理士がいわばサービスのような形で請け負っている場合も散見されます。

税理士と社労士で年収がいいのはどっち?

税理士と社労士では、どちらの年収が高いでしょうか?厚生労働省が2017年に調査した「賃金構造基本統計調査」から、さまざまな職種の年収が計算できます。
税理士は公認会計士との合算になった数字ですが、平均月給が69万1,800円、年間賞与が212万3,300円となっており、年収は1,042万4,900円です。これに対して社労士は、平均月給が35万2,400円、年間賞与が103万3,300円で、年収は526万2,100円となります。年収という面では、税理士のほうが恵まれているといえます。

税理士と社労士、転職・開業ではどちらが有利?

では、転職や独立開業する場合、税理士と社労士ではどちらが有利なのか、考えてみましょう。

・転職の場合
税理士法人や会計事務所、そして社労士事務所というそれぞれの専門組織への転職を除き、一般事業会社等に転職をする場合を比較すると、税理士と社労士は求められるニーズが異なります。ですから、どちらが有利かという単純な比較はできません。しいていうなら、企業の経理・財務部門へは税理士が、人事・労務部門への転職には社労士が、それぞれの資格を活かして有利に転職でき、働きやすいでしょう。

・開業の場合
年収の違いを見てもわかるように、独立開業して経営が安定すれば、税理士のほうが金銭的に恵まれる可能性は高いといえます。その理由として顧問契約料を比較すると、社労士より税理士のほうが高い傾向があるためです。

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社労士になるには

このように見ていくと、税理士に比べて社労士は、あまり魅力のない資格のように思われるかもしれません。しかし、税理士が社労士の資格も保持するダブルライセンスは、先にご紹介したように魅力的に映るため、取得しておいて損はないでしょう。
それでは社労士になるためには、どうしたらいいのかを具体的に見ていきましょう。

社労士試験の受験には受験資格がある

社労士の試験を受けるには、学歴、実務経験、厚生労働大臣の認めた国家試験の合格といった受験資格が必要です。
なお、学歴で受験資格を満たしていなくても、実務経験や国家資格など、いずれかの要件を満たしていれば受験資格を取得することができます。

<学歴>
・大学、短期大学もしくは高等専門学校(5年制)を卒業した者(専攻の学部学科は問わない)
・上記の大学(短期大学を除く)で、学土の学位を得るのに必要な一般教養科目の学習を終えた者
・上記の大学(短期大学を除く)で、62単位以上を修得した者(卒業認定単位以外の単位を除く)
・旧高等学校令(大正7年勅令第389号)による高等学校高等科、旧大学令(大正7年勅令第388号)による大学予科または旧専門学校令(明治36年勅令第61号)による専門学校を卒業または修了した者
・上記の学校以外で、厚生労働大臣が認めた学校等を卒業し、または所定の課程を修了した者
・修業年限が2年以上で、かつ課程の修了に必要な総授業時間数が1,700時間(62単位)以上の専修学校の専門課程を修了した者

<実務経験>
・労働社会保険諸法令の規定に基づいて設立された法人に勤務し、同法令の事務実務に3年以上従事していた者
・国または地方公共団体の公務員や特定独立行政法人・特定地方独立行政法人・日本郵政公社の職員として、行政事務を3年以上行っていた者
・社労士や弁護士の事務所・法人で3年以上補助業務をしていた者
・労働組合または会社その他の社団法人・財団法人等で、労務を3年以上担当していた者
・労働組合または法人等で労働社会保険諸法令に関する実務を3年以上行っていた者

<国家資格>
・社会保険労務士試験以外の国家試験のうち、厚生労働大臣が認めた国家試験に合格した者
・司法試験予備試験、旧法の規程による司法試験の第1次試験、旧司法試験の第1次試験または高等試験予備試験に合格した者
・行政書士の資格保有者

社労士試験の合格率

2018年度の社労士試験は、38,427名が受験し、合格者は2,413名、合格率は6.3%です。ここ10年あまりの合格率の推移を見ても、最も高い年で約9.32%、最も低い年は約2.58%と、難関試験であることがわかります。

社労士試験の試験科目

試験科目は「労働保険」と「社会保険」の大きく2つに分けられ、10のジャンルから構成されています。
具体的には以下のような内容です。

・労働基準法
・労働安全衛生法
・労働者災害補償保険法
・雇用保険法
・労働保険徴収法
・労務管理その他の労働に関する一般常識
・社会保険に関する一般常識
・健康保険法
・厚生年金保険法
・国民年金法

試験は、上記の中から択一式試験7科目(各10問で計70問)と選択式試験8科目(各1問で計8問)とがセットになっており、4時間50分で78問を解く必要があります。「78問」とも呼ばれ、110点満点ですが、全科目にわたって6~7割の正答率が求められるため、偏りのない勉強が必要です。

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税理士が社労士試験に合格する難度はどのくらい?

難関の税理士試験に合格していれば、社労士試験へのチャレンジも容易に感じますが、実際の難度はどのくらいなのでしょうか?

税理士試験と社労士試験の内容は被らない

税理士試験は記述式、社労士試験はマークシート方式と、試験のスタイルが異なっているだけではありません。1年で1~2科目の受験を想定する税理士試験に比べると、社労士試験では一気に出題された8科目のすべてで合格を目指さなければならず、しかも科目内容も同じではなく、税理士試験とかぶっているものはありません。

そのため、税理士試験のために蓄えた知識が社労士試験でも活用できるかと問われれば、残念ながらその効果はあまり期待できません。ただし、勉強への取組み姿勢や試験を要領良く乗り越えるコツといったものは共通なので、税理士試験受験の経験は、どこかで活かされるはずです。

税理士の仕事と社労士試験の勉強は両立できる?

社労士試験に限らず、仕事と勉強の両立は難しいものです。しかし、その壁を乗り越えて、実際に税理士として働きながら社労士資格を取得した方はいます。

そうした方から話を聞くと、朝の始業前の決まった時間に必ず勉強する時間を設けた、自分のスタイルに合った専門学校などに通って効率的に勉強を進めたといった意見が多いようです。本人のやる気や周囲の協力があれば、仕事と勉強の両立は決して不可能ではないのです。

ダブルライセンスでキャリアアップを目指そう!

税理士にとって、社労士とのダブルライセンスは強い武器となり、転職市場でも自分の市場価値を高めるポイントとなります。例えば、ダブルライセンスを活かして税理士法人からコンサルティングファームへ転職するなど、キャリアパスも多様になります。

自分の市場価値を確かめ、キャリアアップのための転職をする際には、転職エージェントの活用がポイントとなります。取得した資格を自分の武器として最大限に活用するためには、サポート体制が整った転職エージェントの活用を検討するといいでしょう。

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