税理士の転職に年齢は影響するのでしょうか？税理士の資格を取得する場合、全科目に一発で合格する方はまれで、多くの方は数年かけてようやく全科目の合格にこぎつけます。
また、税理士登録をするためには2年間の実務経験が必須のため、税理士登録をしてから就職し、さらに転職するまでには、ある程度の年齢になっている場合がほとんどです。

一般の仕事では「転職35歳限界説」をよく耳にしますが、転職は年齢が高くなるにつれて難しくなるといわれています。では、定年のない税理士の場合、年齢による転職の限界はあるのでしょうか？実際の年齢別による転職事例とともにご紹介します。

税理士のような資格職の場合、専門性を活かしたポジションへの転職である場合がほとんどのため、スキルや知識、経験が採用のポイントになります。転職活動を進めるにも、自分の年齢とキャリアを自覚しながら、ステップアップしていけるように意識することが大切です。
そうすれば、35歳以上でも転職に成功するケースは決して珍しくはありません。では、年齢別にどのような転職が可能なのか、実際の転職事例を基に見ていきましょう。

Aさんは税理士試験の2科目合格者で、個人会計事務所に勤務していました。この事務所へは求人広告を見て応募しましたが、面接時に聞いていた就業環境と実際の勤務実態が異なっていたことから、転職を考えるようになりました。
Aさんはまず、転職エージェントに相談しました。前回のように、入社後に条件の齟齬が起きないように、しっかりと専任のキャリアアドバイザーの意見に耳を傾けながら転職活動を行いました。一般事業会社での転職も視野に入れていましたが、最終的に業務そのものには不満がなかったことと、これまでの経験を活かせることから個人会計事務所への転職を決め、見事転職に成功しました。

転職成功のポイントは、転職エージェントを活用することで、「聞いていた話と違う」「面接のときだけ良いことを言われた」といった事態を避けることができたこと、そしてキャリアアドバイザーのアドバイスに耳を傾け、自分の強みを活かした転職活動ができたことでした。

Aさん　28歳／男性

転職前： 個人会計事務所（年収400万円）
転職後： 個人会計事務所（年収450万円）
資格： 税理士試験科目2科目合格

＜20代での転職採用ポイント＞

20代は、税理士試験科目に2～3科目合格していれば、未経験でも採用される年代です。
それだけ転職がしやすく、採用する側も長く勤めてくれる人材かどうか、ポテンシャルの高さや将来の働きに期待する「ポテンシャル採用」がメインとなります。

Bさんは会計事務所に勤務していましたが、会社都合で退職を余儀なくされてしまい、必然的に転職活動をしなければならなくなりました。
シングルマザーで子育て中でもあったことから、現在の年収を維持しつつ、ワークライフバランスを確保できることが転職の条件でした。すでに30代に入っていましたが、まだ科目合格の段階であり、前の職場では補助的役割が多くて十分な経験も積めず、ほとんど未経験に近い状態でした。

そこで転職エージェントに相談したところ、キャリアアドバイザーがBさんの温厚な性格やコミュニケーション能力の高さを見抜き、経験より人柄重視の職場を紹介したことで転職に成功しました。
転職成功のポイントは、転職エージェントが経験豊富だったため、最適な職場を紹介できたこと、求人企業とのあいだに信頼関係もあり、未経験でも書類を出した段階で面接まで進めたことなどがあります。

Bさん　33歳／女性

転職前： 個人会計事務所（年収380万円）
転職後： 個人会計事務所（年収400万円）
資格： 税理士試験科目2科合格

＜30代での転職採用ポイント＞

20代はポテンシャル採用が多いのに対して、30代の税理士の場合は即戦力採用が多くなります。そのため、実務経験の有無が重視されるようになり、未経験の業種への転職はやや難しくなります。
ただし、会計事務所から一般事業会社への転職のように、経理や財務の経験が活かせるポジションであれば、未経験業種への転職であっても歓迎されることはあるので、積極的に実績をアピールしましょう。

また、管理職としての能力も期待される年代なので、大手会計事務所でのマネジメント経験やコミュニケーション能力の高さなどがあれば、転職での強みになります。

Cさんはようやく全科目合格したことから、税理士の有資格者として新たなスタートが切りたいという思いと、高齢社会の進行を見据えて資産税の専門性を磨きたいという理由から、転職を希望していました。

転職エージェントに相談したCさんですが、資産税とは関係ない大手税理士法人のシンクタンク部門の求人が紹介されました。
これはCさんが、年収が下がってもワークライフバランスのとれる働き方を望んでいたことと、その税理士法人のシンクタンク部門では自分で労働時間を調整しやすい環境にあり、残業時間も月10～20時間程度だったためです。さらに、税理士としては新人であるCさんが、税制に関する最新情報や体系的な知識を働きながら得ることができる環境でした。

当初は資産税の業務へのこだわりがあったCさんでしたが、キャリアアドバイザーが部門を超えて資産税の業務にも関われるとの確認を採用企業に取り付けてくれたこともあり、気持ちも固まり、見事内定を勝ち取りました。
転職成功のポイントとしては、キャリアプランや求める条件が明確であったことで、転職エージェントのマッチング作業がしやすかったことと、キャリアプランナーが採用後の仕事にまで踏み込んで交渉してくれたことで転職の決断ができたことが挙げられます。

Cさん　42歳／男性

転職前： 税理士法人（年収550万円）
転職後： 大手税理士法人シンクタンク部門（年収500万円）
資格： 税理士

＜40代での転職採用ポイント＞

40代以降は、実務経験があることは基本です。外資系大手税理士法人の出身者で国際税務の経験があるとか、上場企業の経理財務部門でマネージャー経験者であるといったように、経験の中身が問われるようになります。また、管理職としての採用も増えることから、マネジメント能力も求められます。

ただし、40代になると全体的に求人数も減少する傾向があり、さらにまったくの未経験分野への転職はやはり難度が高くなります。税務・経理に関する専門知識や経験、高いスキル、マネジメント能力の高さをアピールすることが大切です。

ほかの職業に比べて、税理士は専門的な知識・経験・スキルを積んでいれば、年齢に関係なく転職が可能です。現在、税理士業界では深刻な人材不足が続いており、売り手市場となっていることも転職活動を有利に進められる要因かもしれません。
ただし、売り手市場だからといって、どんな転職でも成功するというわけではありません。特に、地方や中小の個人事務所では、メインのクライアントとなる中小企業か減っており、企業会計のグローバル化やクラウド会計にも対応しきれず、創業者が高齢化して経営が難しくなってきている事例も多く発生しています。税理士業界の二極化が指摘され、税理士事務所自体のM&Aも増えています。

このように競争が激化している中で、税理士としてステップアップしていけるよう意識的に転職活動をすることが大切です。従来の会計事務所や税理士事務所に勤務するといったスタイルだけでなく、思い切ってほかの職種に転職するキャリアチェンジ（職替え）という選択肢も検討すべきでしょう。
そこで、未経験からの転職も含め、キャリアチェンジの転職事例をケース別に見てみましょう。

Dさんは、大学在学時に1科目合格していましたが、当時の景気動向の影響などで、一般事業会社の経理職に就職しました。その後も継続して勉強しましたが、3科目合格の時点で年齢的なこともあり、税理士法人で働きながら税理士資格を目指したいと転職を希望しました。

Dさんは税理士法人の仕事は未経験である点に不安を感じ、転職エージェントに相談をしました。そこで、キャリアアドバイザーから3科目を取得していること、経理職での税務経験が強みになるとアドバイスされ、その強みを面接でアピールできるように面接対策のレクチャーも受けました。さらに、面接後にキャリアアドバイザーが採用企業にフォローも入れたことで、40代で未経験ながら見事内定を勝ち取りました。
Dさんの転職成功のポイントは、継続的に税理士資格取得に向けて勉強をしていたため、採用企業側から飲み込みの早さが期待できると高評価を受けたこと、入社希望日から逆算し3ヵ月前から計画的に余裕を持って転職活動を行ったことが挙げられます。

Dさん　41歳／男性

転職前： 一般事業会社（年収450万円）
転職後： 税理士法人（年収480万円）
資格： 税理士試験3科目合格

Eさんは、大手銀行の営業として勤務しながら、約3年半で税理士試験に合格し、その後は税理士事務所で巡回担当者（外勤担当者）として勤務していました。しかし、結婚・子育てなどもあり、ワークライフバランスを保つのが難しくなってきたため、転職を決意しました。
最初から一般事業会社の経理職に希望をしぼっての転職活動を行い、子供の保育園の送迎に支障のない働き方ができるということが転職先への条件でした。そこで転職エージェントは、子育てに理解のある事業会社を紹介。採用企業からは、Eさんが税理士の有資格者であることや、キャリアやスキルも申し分ないことから時短勤務を認めた採用が決まりました。

Eさんの転職成功のポイントは、税理士資格を取得した後も年齢にふさわしいキャリアをきちんと積み上げていたこと、そして転職エージェントを活用したことで子育てに理解のある企業と巡り会えたことが挙げられます。

Eさん　33歳／女性

転職前： 税理士事務所（年収420万円）
転職後： 一般事業会社（年収540万円）
資格： 税理士

Fさんは、一般事業会社で働きながら、7年かけて税理士試験の全科目合格を果たしました。それを機に、資格を活かして働きたいと会計系コンサルティングファームでの就業を希望し、転職エージェントに相談しました。
Fさんの場合は、即戦力であることが求められる年代だったため、税理士資格はあるものの、実務経験がない点が当初からネックとなり、書類選考もなかなか通過できませんでした。結果的に内定の決まったコンサルティングファームも、未経験者の募集は行っていませんでしたが、タイミング良く大手クライアントの経理部への常駐案件が入ったとの連絡があり、2度目の面接の後に内定が出ました。
キャリアアドバイザーの働きかけもあり、2年後には本社に戻って会計・税務コンサルティングに携われることや、年収の現職維持といった条件も了解してもらえました。

Fさんの転職成功のポイントは、自分の当初の条件にこだわらず柔軟に対応できたこと、未経験者が応募できる案件がない中でも打診して積極的に応募をしたこと、そして条件面等に固執しなかった点が挙げられます。

Fさん　35歳／男性

転職前： 大手自動車製造会社（年収500万円）
転職後： 独立系コンサルティングファーム（年収500万円）
資格： 税理士

転職活動がうまくいかないと年齢のせいにしてしまいがちですが、「何歳だから転職できない」ということはありません。特に、税理士のような専門職の場合は、採用企業は年齢よりもスキルや専門性の高さ、経験、人柄、条件面での折り合いなどを重要視します。
いくつになっても欲しいと言われる人材になるように、スキルや経験を積んでおくことが、成功する転職への一番の近道だといえるでしょう。