税理士業務における IT を使った効率化

税理士業務における IT を使った効率化

この記事は、税理士事務所で「従来から行っている業務を効率化する」という視点で書かせていただきます。

松井 元

松井 元

税理士

静岡県三島市の松井会計事務所に勤務する税理士。大学院で工学専攻を卒業後、自動車部品メーカーでエンジニアとして8年間働く。自分の頑張りが成果として見える環境で働きたいと考え税理士事務所に転職。34歳から税理士を目指して、働きながら税理士試験・大学院での税法論文作成を経て税理士登録。税務・会計と IT を使った経理効率化の両面でお客様をサポートすべく奮闘している。

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日頃の業務の見直し

無駄を見つけ出す

 税理士事務所の業務は、仕訳の入力、試算表の作成など作業的なことから、お客さまへの提案を考える思考的なことまでさまざまです。作業的な業務にかける時間は効率化により短縮して、付加価値がある仕事に時間をかけられるようにしたほうが望ましいです。
そのためには、まずは日頃の業務のどこで無駄が生じているのか探し出し、それらを改善することを考えなくてはなりません。日々同じことを繰り返してそれに慣れてしまうと、たとえ非効率であっても疑問を感じなくなってしまうので、慣れというのは怖いのです。たまに時間をかけてじっくりと業務を振り返り「面倒くさい」「時間がかかっている」と感じる部分を洗い出したほうが良いと考えます。
 たとえば、一度手書きで紙の資料を作ってからパソコンに入力するという具合に、手書きとパソコンで同じ入力を2回行うのは無駄なことです。最初からパソコンで資料を作れば事足ります。また、一度パソコンのツール(例:Excel)に入力したデータをプリントアウトして、それを目視しながら、ほかのツール(例:会計ソフト)に入力するのも無駄な場合が多いのです。プリントアウトする必要はなく、パソコンの中でデータの移動を済ませられる場合が多いでしょう。
 昔から続いている税理士事務所ほど、古い習慣が残っているため無駄も多く見つかると思います。改善までの道のりは遠くけわしい場合もありますが、まずはこの「無駄探し」を行うことをおすすめします。

改善の優先順位づけ

 多く見つかった無駄の中でも、改善することによって大きな効果が得られるところから、改善に取り組むことを考えましょう。年末調整などすべての顧問先について、一律で同じ作業を行うことについて改善できるポイントが見つかれば効果は大きいと考えます。逆に特定の顧問先にしか当てはまらない改善ポイントであれば、それは事務所全体の業務で見れば改善の効果が小さい場合が多いでしょう。
 改善の効果が大きいものから優先的に直すべきと考えます。

Excel やそのほかの ITに詳しい人材を事務所に1人は作る

業務の改善にExcel やそのほかの IT スキルは必須なので、事務所に 1 人は詳しい人材がいたほうが良いです。ただ、詳しい人材といってもエンジニアのような専門性を有しているという意味ではなく、IT の課題についてネットで調べながらでも何とか解決できれば十分と考えます。いまの時代、ネット上にたくさんの情報が転がっており一昔前と比べれば IT に対する敷居は低くなっているので、調べながら対応することは一種の習慣のようなものともいえます。
 IT に詳しい人材が担当者となり、日常の業務で見つかった改善ポイントを IT を使ってどのように解決したら良いか考えて対応できるようになれば改善は進みやすくなります。ちなみに、私がいる事務所では私自身がその役割を担っており、日々業務の改善を考えています。

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Excelを活用した効率化

紙に手書きで作成していた資料を Excel 化する

 Excel は一般的に有名なツールであり、税理士事務所の業務でもかなり使えます。まず、事務所内で作成する資料で従来から手書きで行っているものがあれば、随時 Excel 化していきましょう。手書きと Excel では資料の作成スピードが全然違いますし、Excel の場合、一度資料のフォーマットを作ってしまえば翌年以降もそれを使い回すことができます。
 金額の集計やそのほかの計算をする場合にも、従来のように電卓を使う必要はなくなり、Excel シートで四則演算や関数を使えば数字を入力するだけで自動的に計算できます。
私のいる会計事務所の例でいえば、年末調整で使う保険料控除申告書を Excel 化することによって、従来は手書きで行っていた業務を大幅に短縮しました。

Excelシートと会計・税務ソフトを組み合わせて使う仕組み

 税理士事務所で必ず使う IT ツールといえば会計・税務ソフトです。会計ソフトを使えば、元帳や試算表は自動的に作成され、税務ソフトを使えば税金の計算を自動的に行えます。ただ、これらのツールもけっして万能ではありません。会計・税務ソフトで作成することができる資料がわかりやすい(顧問先が求めている)ものとは限りません。Excel を使って独自の資料を作ったほうが良い場合もあります。
 また、顧問先の会計ソフトのデータを税理士事務所の会計ソフトの中に取り込む、顧問先の販売管理システムのデータを税理士事務所の会計ソフトに取り込む、という具合にツール間をまたいだデータの移動を行いたい場合もあります。前述のとおり、こういう場合に紙にプリントアウトした資料を見ながら再度入力するという作業を行うのは時間の無駄です。こういう場面にこそ Excel を活用しましょう。会計ソフトなどのツールには CSV 入出力というデータの移動手段があり、移動元のツールから CSV データを取り出してから加工してそれを移動先のツールに移すことが考えられます。そして、そのために Excel の関数やあるいはマクロを使って CSV データを加工すると便利です。
 上記のように Excel の関数やマクロを使うことで、業務効率化の幅はかなり広がると考えられます。マクロにはプログラミングのスキルが必要で少々敷居が高いですが、それでもネット上に情報はあふれているので、調べながら対応することに慣れれば十分活用できます。

ITを活用した効率化

客先への協力依頼

 税理士事務所の業務の効率化をするためには、客先へ協力を依頼しなければならない場合もあります。従来手書きで作成していた資料を Excel で作成してもらう、Excel のフォーマットを税理士事務所で作成したものに変更してもらう、会計ソフトへの入力をしてもらう、など税理士事務所で扱いやすい電子データとしてもらえるように協力してもらう必要があります。
 顧問先と税理士事務所、両方の業務を全体で考えて一度入力したデータを上手に使いまわせないかを考えることが大切です。そうすることで税理士事務所のみならず、客先での業務も効率化する場合も多く、トータルでの労力を減らすことにもつながります。

ネットバンキングを活用した記帳代行の効率化

 客先の記帳代行を税理士事務所で行っている場合に、客先が既にネットバンキングに登録していれば、データをもらってそれを加工して会計ソフトに仕訳の形で取り込むようにしたほうが良いです。会計ソフトにネットバンキングのデータを仕訳に変更できる機能が付いている場合はそれを活用できますし、ない場合は Excel マクロを使ってそのようなツールを作成することも可能です。仕訳を一行一行通帳を見ながら会計ソフトに入力するよりも、一括でデータを取り込んだほうがはるかに作業時間が短くなることは間違いありません。
 また、記帳代行を行っている客先がまだネットバンキングに登録していなければ、登録してもらうのもありです。銀行取引が多い客先であれば仕訳入力の時間は大幅に短縮できます。ただ、ネットバンキングへの登録は残念ながら無料ではないので、年間数千円の使用料を税理士事務所の側で負担することも考える必要があります。

クラウド会計を活用した記帳代行の効率化

 クラウド会計ソフトを使えば、銀行取引やクレジットカードの取引を自動で会計ソフトに取り込むことができます。金融機関やクレジットカード会社との提携によりリアルタイムでデータを連動して自動的に仕訳に変換されるのでとても便利です。毎月の試算表の作成など可能な限り早く結果を求める顧問先であれば、クラウド会計を導入して記帳代行を対応するのが良いでしょう。ただ、現金取引が多いところだと結局仕訳を手入力しなければならずあまりクラウド会計の利点を活かせないので、取引の大半が銀行取引かクレジットカード取引であるところを対象にしたほうが良いでしょう。
 クラウド会計ソフトはネットバンキングと併せて費用がかかるので、記帳代行のために導入する場合はその分を税理士事務所で負担する必要がありますが、銀行取引・クレジットカード取引が多い客先であれば、従来はその分の仕訳を手入力していた時間を短縮することができるので大幅な人件費の削減につながり、使用料の元をとることはできると考えます。

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