個人税理士事務所と税理士法人には、どちらにも幅広く業務を行っている事務所（何でも型）と、「相続専門」のように特定の分野に特化している事務所（特化型）があり、その点は同じですが、従業員の数や仕事の担当業務の幅は異なります。

個人事務所は従業員の数が少なく担当業務の幅が広い傾向があるのに対して、税理士法人は従業員の数が多く担当業務の幅が狭い傾向があります。税理士法人も規模に差があり、従業員が十数人のところもあれば、数千人にのぼる大手もあります。規模が小さな税理士法人は、個人事務所とそれほど変わりませんが、大手になればなるほど個人事務所との違いは顕著になるでしょう。

何でも型の個人事務所の場合、従業員（所員）は個人・法人両方ともの顧問先を担当するのに対して、大手の税理士法人の場合、何でも型であっても自分が所属する部門によっては、法人の顧問先しか担当しない、あるいは個人の顧問先しか担当しないようなケースも多く見られます。

私は、もともとは大企業（メーカー）で長年勤めておりましたが、辞めて実家の税理士事務所に入所しました。前職はエンジニアで、いまは税理士ですので、仕事の内容は全然違いますが、大きな組織と小さな組織の違いは実体験を通してよく知っております。

組織が大きいと、どうしても組織内の政治色が強くなります。何をするにも会議での議論は欠かせず、物事を決定して動き出すまでに時間がかかるものです。ほかの部門に仕事を依頼すると、同じ社内であっても費用を支払わなければならないこともあり、まるで別会社のように感じることもありました。自分の仕事が組織全体にどう貢献しているかもわかりにくいです。ただ、安定している点やノウハウが豊富な点は大きな組織の強みといえるでしょう。

一方で小さな組織は、身軽で何をするのにもすぐに動き出すことができ、また自分の仕事が組織全体にどう貢献しているか、わかりやすいです。ただ、人が少ないがゆえに仕事が個人に依存しやすく、人材が流出することによるリスクは大きいといえます。

個人事務所では担当業務の幅が広く、特に地方の税理士事務所は特化型ではなく何でも型になりますので、言葉のとおり何でもやらなければなりません。私がいる事務所では法人の顧問業務、個人事業主の顧問業務、顧問先の相続対応などを行っております。これらの業務を経験することで、会計はもとより法人税、所得税、相続税と主要どころの税務の知識とノウハウが身につきました。

顧問先の経営者や個人事業主の方に、自分自身を必要としてもらえていると感じることができることも大きな喜びになっております。大企業にいるときは、外部の人と関わるときには自分のことを一担当者としか見てもらえず、信頼関係も私個人に対するものというよりは会社に対するもので成り立っておりました。

また、大企業にいたときと違い、自分がやりたいと思ったことはすぐに行動に移すことができます。私は、税理士の資格を取った後に本来の業務である税務・会計のほかに、中小企業・個人事業主の経理業務を助けるためにITを使った業務効率化の支援を始めました。

ほかにもオンラインセミナーの開催や雑誌での執筆の仕事も受けております。営業活動としては町の会に属して経営者との接点を持つように努め、ブログやYouTubeでの情報発信も行っております。これらはすべて自分で決断して動いた結果として行っていることなので、自分の思いに従って仕事ができているといえます。

個人税理士事務所で働くことの良さについてお話ししました。私の場合、大企業と個人税理士事務所という両極端な2つの職場を経験しているので、個人税理士事務所の良さがよくわかるのだと思います。 幅広くいろいろなことを身につけることができて、すぐに動けるところが個人税理士事務所の良さです。 仕事の環境を変えるかどうか考えている方は、この記事の内容を１つの参考にしていただければと思います。