税務と会計の違いとは?目的や特徴、収益・費用の考え方を税理士向けに解説

税理士の我々が普段接するのは「税務」と「会計」です。この2つはどう違うのでしょうか。税理士が普段気になるけどなかなか分からない「税務と会計の違い」を、目的や考え方、具体的な勘定科目や決算での流れで確認していきましょう。
目次
「会計」「税務」とは何か?それぞれの内容を確認
最初に「会計」と「税務」のそれぞれの内容を、念のため確認しておきましょう。
会計とは何か
会計とは、簿記を用いて日々の取引の記録を行い、決算手続きを経て企業の財務状況と経営成績を財務諸表において数字で示すことを言います。「企業会計」「財務会計」とも呼びます。
この一連の作業は、なぜ必要なのでしょうか。それは「企業の利害関係者に企業の状況に関する情報を正しく提供するため」です。
企業が経済活動を行うとき、さまざまな利害関係者の存在があります。企業の経済活動の資本となるお金を提供する株主、企業に経営資金を融資する金融機関、企業と売買を行う取引先などです。こういった利害関係者が企業とかかわるにあたり意識するのは「安心して取引できるかどうか」です。
株主は将来の成長性と配当を、金融機関は安定した経営と返済と利払いを、取引先は売買による利益を期待して取引に入ります。それぞれが期待するものを企業が持ち合わせているかどうかを見るには、企業の会計の情報を財務諸表で確認するのが最適です。
なお現在、日本の企業の会計は基本的に「企業会計原則」に則って行われます。企業会計原則は、会計の慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められるものを要約した基準です。このほか、財務諸表規則、商法・会社法なども会計処理の際の指針となります。
税務とは何か
税務とは、源泉所得税や申告所得税などの計算、納税申告書の提出や納税など、税に関する実務全般を言いますが、本稿では「申告・納税のための会計」と定義します。
税務の会計の大部分は、企業会計と重なりますが、一部異なるところがあります。日本の税制では、課税の公平を重視しており、企業会計で計上する収益や費用を計上できないことがあるのです。本稿では、法人税法での考え方を比較対象としていきます。
会計と税務の違いは?①目的
では、ここから会計と税務の違いを確認していきましょう。まずは目的における違いです。
会計
会計では、利害関係者に企業の財政状態や経営成績などを適切に示すことを目的としています。彼らが企業と取引するにあたり、客観的な指標をもって判断できるようにするためです。そのため実際に受け取った収益や費用の額だけでなく「この資産は決算期時点で本当はどれくらいの価値なのか」を評価して計上することも求められます。
税務
税務での会計は、税法に定められたルールに則って所得額と課税額を算出し、納付することを目的としています。そして税法では、課税の公平を重視しています。そのため、個々人の恣意が入り込まないよう、税法上の収益や費用にできるものに制限を設けています。
ただし法人税法では、最初から税法に則って課税所得額と税額を計算することはしません。まず公正妥当な会計処理の基準に則って会計処理をし、ここで計算した利益を所得額として採用します。その後、申告書の別表4で税法独自のルールに合わせて加算減算を行い、課税所得額を算出します。こうすることで、どんな納税者であっても公平に課税額を計算できるようにしています。
なお、課税の公平を重視するのは所得税など、ほかの税目でも同じです。
会計と税務の違いは?②収益・費用の考え方
次に、収益・費用の考え方の違いを見ていきましょう。
会計
会計では、実際に発生した収益・費用のみならず、企業の実情に合わせて資産・評価したものも収益や費用として計上することがあります。たとえば棚卸資産です。棚卸資産は入荷した後、個数が減ったりするだけでなく、時間の経過とともに陳腐化していくこともあります。こういったものも、評価損として費用化していきます。
税務
税務会計は、課税の公平を実現すべく、個々人の恣意が入り込みそうな要素を排除していくのが特徴です。特に費用や債務は、確定したものでないと計上することは原則認められません。
先ほどお伝えした棚卸資産の陳腐化による評価損は、その陳腐化の状況が過去の実績などから見て客観的かつ確実であると認められるときでないと法人税法上、損金の額に計上できません(法法33②、法令68①、法基通9-1-4)。なおかつ、日常の会計処理の段階で損金経理(費用計上)をしていることも求められます。
会計と税務の違いは?③用語
会計と税務では用語も異なります。次の通りです。
会計
会計では、企業の経営成績を損益計算書(P/L)で、企業の財産状況を貸借対照表(B/S)で表します。損益計算書では、売上や固定資産売却益などを「収益」と呼び、売上原価や固定資産売却損などを「費用」と呼びます。最終的な損益は「利益」「損失」と言います。また、貸借対照表では、資産・負債・資本(純資産)の3つに分けて財産状況を表示します。
税務
法人税では「益金の額」「損金の額」と表現します。利益にあたる部分は「所得」と呼びます。課税標準額となる所得額は別表四で、法人税法上の財産状況は別表五(一)で計算します。
「益金の額=収益」「損金の額=費用」と言いたいところですが、実は一致しません。先ほどお伝えした通り「会計は利害関係者への適正な情報提供のため」「税務は課税の公平を実現するため」と、両者の目的が異なるからです。そのため、会計で収益として計上されても益金の額にならないもの、会計で費用計上したけれど損金の額に算入できないものがあります。
会計と税務の違いはどう表れる?会社の決算・税務で確認
会計と税務の違いは、個々の項目で具体的に確認することができます。以下、収益と益金の額の違い、費用と損金の額の違いを見ていきましょう。
受取配当金
企業が他社から株主として受け取った配当金は、会計では収益として計上します。しかし、税務では配当金を益金の額に計上しません。
配当金の支払いは、法人税が課された後の残りの所得額から行われます。これに課税をしてしまうと二重課税となってしまいます。この二重課税を避けるため、受取配当金は益金不算入としています。
減価償却
減価償却のしくみは会計にも税務にもあります。しかし、税務では法人税法で償却限度額が定められており、それ以上に減価償却をしたとしても損金の額に計上できません。なお、減価償却費を損金の額に計上する場合、会計上で費用計上していることが条件となります。
さらに、税務では特殊な償却方法があります。「20万円未満の固定資産は3年間にわたって取得価額を均等償却してよい」という一括償却、「青色申告をしているのならば30万円未満の固定資産は取得価額を全額償却してよい」という即時償却があります。しかし、こういったしくみは、会計にはありません。
引当金
取引先の倒産などで売上債権や貸付債権を回収できなくなったときに備えて計上する貸倒引当金など、引当金計上のしくみは会計にも税務にもあります。しかし、引当金は確定した事実に基づいて計上するものではなく、あくまで見積もり計上するものであるため、税務では繰入額計上について厳格に定めてあります。
役員報酬
役員報酬は、株主が経営を委託した取締役などに支払うものです。会計では、企業経営の必要なコストとして費用計上します。
一方、法人税では原則「役員報酬は損金の額に算入しない」としています。なぜこうなっているのでしょうか。「役員が経営を預かる立場であるため、自分たちの役員報酬を恣意的に操作し、課税所得額を不当に下げる可能性が高い」と考えているためです。そのため、定期同額給与や事前確定届出給与など客観性や公平性を担保できるものを除き、役員への給与・賞与は原則として損金不算入となっています。
まとめ
今回は会計と税務の違いをまとめました。会計業界にいると、会計にも税務にも日々かかわります。会計と税務とで処理が異なって混乱することがあるかもしれません。そんなときに、この記事でお伝えしたことが少しでもお役に立てば幸いです。
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