「AIで税理士の仕事がなくなる」ってホント?将来の活躍のポイントを確認
「AIで税理士業務が消える」__ここ最近、まことしやかに語られるようになりました。なぜでしょうか。今回、この背景を探るとともに、税理士が活躍するためのポイントを考察しました。
税理士の将来性に不安を感じている方や、キャリアプランに疑問がある方は、マイナビ税理士のキャリアアドバイザーまでお気軽にお問い合わせください。これからを担う税理士としてのキャリア戦略をご提案いたします。
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「AIで税理士の仕事がなくなる」と言われる理由
そもそも、なぜ「AIで税理士の仕事がなくなる」と言われるのでしょうか。この背景には、ある論文の存在があります。そしてその論文の内容を実現するかのように、会計業界も少しずつ変わってきて来ます。
2014年のAI研究者が論文を発表
「AIで多くの仕事がなくなるかもしれない」___世間を騒然とさせた論文が2014年秋、イギリスで発表されました。論文のタイトルは「雇用の未来(Future of employment)」。書いたのは当時、オックスフォード大学で准教授を務めていたマイケル・オズボーン氏でした。
この論文には、AIで消える可能性のある職業が702、挙げられています。その中には、会計業界に関わる次の職業が含まれていました。
・税務申告書代行者
・データ入力作業員
・簿記、会計、監査の事務員
会計業界では、「まさか」「そんなはずはない」と言う声が少なからずありました。2014年当時、会計ソフトはあったものの、入力は手作業が一般的だったからです。また、「仕訳を切る」「決算を組む」「税務申告書を作成する」といった作業は、専門的な知識がなければできません。「お菓子の購入一つにしても、福利厚生費か交際費かの区別がつくのか」と、一部の税理士は半信半疑でした。
税務・会計処理のクラウド化でDXが進む
その後、会計業界の一部の疑念を吹き飛ばすかのように、税務・会計業界のデジタル化が進みます。それまで一つひとつのパソコンに会計や税務のソフトをインストールしていたのが、クラウドソフトの普及によりオンラインで入力作業や決算が行えるようになったのです。
さらに、銀行口座やクレジットカードと会計ソフトを連携することにより、自動的に仕訳が行われるようになりました。最近は紙のレシートや領収書をスキャナで読み込めば、自動的に仕訳がされるサービスも普及し始めています。
税制も会計のデジタル化を後押し
また、会計業界の変化を受け、対応する税法も整備されました。2021年度税制改正における電子帳簿保存法の緩和です。
【引用元】電子帳簿保存法が改正されました_2021年5月(国税庁)
紙の帳簿や領収書をすべてデジタル化して保存する場合、以前は税務署の承認が必要でした。この承認のハードルがかなり高く、紙以外で保存するのはほぼ不可能だったのです。しかし改正により事前の承認は不要となりました。帳簿は原則デジタル保存、レシートなどの紙の証憑書類は条件を満たせばスキャンデータで保存できるようになったのです。
【引用元】電子帳簿保存法が改正されました_2021年5月(国税庁)
また、税務申告や納税もe-taxを使ったものが主流になってきています。アナログな作業は今の会計業界において不要なものとなりつつあるのです。「AIが税理士の仕事を奪う」は、あながちウソではないかもしれません。
AIの前に…税理士の仕事を再確認
「AIで税理士の仕事がどうなるか」を考える前に、ここで税理士の仕事を振り返りましょう。
税理士の独占業務3つ
税理士の独占業務には、次の3つがあります。
・税務代理
・税務書類の作成
・税務相談
税務代理とは、税務調査や処分において、納税者本人の代わりに事実解明や主張、陳述を行うことです。税務調査に立ち会う程度の援助行為も含まれます。
税務書類の作成とは、申告書や納付書、そのほかの税務に関する書類を作成することです。ただし、この税務書類には財務諸表は含まれません。
税務相談とは、税務申告や税務調査など、税務に関する納税者からの相談に応じることです。
この3つの業務は税理士しかできません。税理士以外の人が行うと、2年以下の懲役または100万円以下の罰金の刑に処せられる可能性があります。
記帳代行、財務諸表の作成
申告書に添付する財務諸表や日々の記帳業務は、税理士の独占業務ではありません。しかし、独占業務に付随して発生します。これらの業務を担う税理士は少なくありません。
独自業務
上記のほか、次のような業務を行っている税理士もいます。
・融資・補助金支援
・コンサルティング(節税対策など)
・専門学校の講師、大学教授
・文筆業
・ソフト開発(資金繰り対策など)
・会計事務所の顧問業
こういった独自の仕事を行う税理士は、増えています。筆者もその一人です。
「AIで税理士が消える」とは言えない3つの理由
「AIで税理士業が消えるかも」という懸念は、おそらく次のような内容ではないかと思います。
すでにクラウドの自動連携や自動仕訳で経理の自動化が進んでいる
↓
・専門業務である税務申告も、AIが自動的に作成できるようになる
・税務相談は、AIが自動的に答えられるようになる
↓
税理士の仕事がなくなる
心配する気持ちは分かります。ですが、一つひとつの業務を見直すと、AIで税理士の業務がなくなるとは考えられません。理由は次の通りです。
記帳も税務も判断がかなり複雑
記帳が自動化されても、確認は人間の目で行う必要があります。仕訳の一つ一つは複雑な税務判断が伴うからです。特に消費税は、取引内容だけでなく購入目的や事業内容から吟味する必要があります。2023年10月以降、インボイス制度が始まったら、もっと複雑になるはずです。
また、税務申告でも、税制を深く理解している必要があります。条文の字面だけを追うのではなく、趣旨も理解しなくては正しく判断できません。
仕事相手は「人間」
国税庁のサイトでは、最近、チャットボットが質問に答えるようになりました。ただ、誰もが「満足のいく回答を得た」とは感じないでしょう。質問の意図をAIは読み取れないからです。また、機械的に答えられるのを好まない人もいます。税務業界の顧客である納税者は人間です。人間には心があります。心を読み取り、応じられるのは人間です。AIでは対応しきれません。
税務・税制の動きが早くて複雑
最近、税務や税制の動きが早くなっています。最近話題の「副業300万円問題」もその1つです。また、税制が全体的に複雑になっています。AIが完璧に対応するのは至難の業です。
AIがあっても税理士が活躍する3つのポイント
そうはいってもAIで今後も会計業務の効率化は進みます。それでも税理士が活躍するなら、次の3つがカギになると思われます。
地道に実績を積み上げる
機械的に作業を行うAIより、経験豊富な人間の税理士の方が顧客から信頼されやすいものです。その信頼を得るには、地道にコツコツ実績を積み上げるしかありません。
AIを使うポイントを見極める
AIによる効率化が進んでも、人間の判断は必要です。しかし、その都度、確認すべきポイントを考えていては逆に効率化できません。
そこで考えたいのが業務フローの見直しです。「どこをAIに任せ、どこで人間の目を入れるか」を決めておけば、効率化しつつ、質の高い業務を行うことができます。
誰にも負けない強みを作る
活躍する税理士の多くは、強みを活かしています。ていねいな応対を強みとするところもあれば、資金繰り支援に特化しているところもあります。強みがあると、顧客が離れたり、価格で勝負したりするリスクを抑えられます。競争相手が減るからです。
まとめ
AIで税理士の仕事は効率化しても、なくなることはないでしょう。経済の動きが複雑になり、税制もこれに応じるべく難しくなっているからです。そして、AIが複雑な税務に単独で対応するには限界があります。
むしろ、AIをうまく使って業務を効率化し、ほかの業務で生産性を上げれば、税理士にはプラスになります。AIは道具に過ぎません。どう使うかは、人間次第なのです。
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