【税理士・科目合格者向け】ワークライフバランスを整えるためのキャリアパスとは?ポイントを解説
「税理士業界で働くのは大変」と思われがちです。しかし最近はワークライフバランスを大事にする会計事務所が増えました。コロナ禍が大きなきっかけとなっています。今回は、税理士・科目合格者向けに、税理士業界でワークライフバランスを意識しながらキャリアを積むポイントをお伝えします。
コロナ禍で税理士業界もワークライフバランスが可能に
「残業が多い」「確定申告や3月決算の時期は特に定時で帰りづらい」__これが税理士業界の従来のイメージでした。これまで改善の要望がありつつもなかなか変われなかったのですが、新型コロナウイルス感染症のまん延を機に2020年頃からワーフライフバランスが少しずつ実現できるようになりました。3つの大きな動きがあったからです。
リモートワークの増加
感染症対策として、対面の業務からリモートワークに切り替える会計事務所が急増しました。新型コロナウイルス感染症の位置づけが2023年4月から5類感染症となりましたが、リモートワークを続けている会計事務所は少なくありません。2022年度税理士法改正で「リモートワークを導入していても二か所事務所とはならない」と規定されたことも影響しているようです。
リモートワークにより、仕事をしながら家事や育児、介護を行える環境が整いました。繁忙期でも、私生活を大事にしながら業務を行うことが可能となっています。
AIやITツールの利用の増加
リモートワークの増加に伴い、遠隔での業務を可能とするITツールが導入されるようになりました。Web会議システムやチャットツールの他、勤怠管理システムや社内情報の共有ツールです。こういったシステムを導入して効率的な働き方が可能となったことで、家事をしたり子どもとかかわったりする時間が増えた人も少なくないようです。
意識の変化
コロナ禍以降、家族や社会とのかかわりを重視する人が増えました。内閣府が2022年6月に公表した調査によれば、コロナ禍を機に家族の重要性を意識するようになった人が50%近くとなっています。
参照:新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(2020年6月21日)|内閣府
この傾向は、コロナ禍が収束しつつある今も続いているものと思われます。
なぜ税理士業界でワークライフバランスが重要か
税理士業界では、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。この背景には次のような事情があります。
女性の活躍が欠かせない
税理士業界では、今後、女性の活躍が期待されています。2016年3月末時点における女性税理士の割合は全体の14.4%に過ぎません。しかし、2006年から2016年にかけ、所税税理士の登録者数は3000人前後となっています。
また、税理士試験の5科目合格者のうち女性の占める割合は、この8年間で25%から30%前後を維持しています。
「2015年度(平成27年度)から2022年度(令和4年度)までの税理士試験結果|国税庁」を元に筆者作成
女性ならではのきめ細やかな対応や確認が求められていることもありますが、国家資格であるため就職に有利であること、出産・育児・介護や夫の転勤があっても働きやすいことなどから、税理士を志す女性の割合が高まっていると見られます。女性税理士の働く環境の整備として、ワークライフバランスの向上が税理士業界に求められているのです。
なお、日本税理士会連合会(以下「日税連」)では、2025年の理事改選から女性理事選出にクオータ制を導入するとしています。現在、日税連の女性理事の割合は5%前後ですが、これを20%まで引き上げるとのことです。女性にとって働きやすい環境の整備が目的ですが、こういったことからも女性税理士の活躍が期待されていることが分かります。
男性側も家庭との両立を重視
最近は、男性の税理士や科目合格者も仕事と家庭のバランスを意識するようになりました。実際、ここ数年で男性の育児休業取得率は急激に高まっています。
昭和や平成の初期と異なり、現在は「仕事だけでなく、家庭や地域生活も大事にしながら生きていきたい」と考える男性が増えています。また実際、男性が仕事だけでなく余暇や家事、育児を大事にすることで、過労の防止や女性の社会進出、労働力不足の解消や出生率の向上といった社会問題の解決も見込まれます。
これは税理士業界でも例外ではありません。ワークライフバランスを会計事務所が意識すれば、生産性の向上やスタッフの定着も期待できます。
資格取得や勉強のための時間の確保
税理士業界の働き方で課題となるのが「勉強のための時間の確保」です。税理士試験の受験生や大学院生なら、勉強や通学のための時間が必要となります。また、税理士として登録した後も、常に勉強しなくてはなりません。税制改正にキャッチアップしたり、税理士業務における事故を防いだりする必要があるからです。
よりよい税理士業務を行うという点からも、税理士業界ではワークライフバランスを整えることが求められます。
関連記事
税理士になるためにかかった勉強時間
<ココまでのまとめ>
・コロナ禍を機にワークライフバランスを意識する人が増えた
・女性税理士の活躍や税理士受験といった観点から税理士業界でもワークライフバランスは必要
ワークライフバランスを整えるための転職先候補
会計事務所・税理士法人
会計事務所・税理士法人は、確定申告の時期を中心に長時間の残業があるという印象が定着していますが、ワークライフバランスに配慮する事務所も増えています。もちろん、ケースバイケースになりますので、事務所ごとに実情をしっかり確認する必要はあります。制度が整っているのはやはり大手ですが、個人経営の事務所では経営者の判断で就業条件を調整できるため、柔軟な対応ができる傾向があります。
また、税理士試験への支援に積極的に取り組む会計事務所・税理士法人は多いです。受験経験者である税理士からアドバイスをもらえる、税務の経験を積むことができるなどのメリットもあり、税理士をめざす方には良い環境といえるでしょう。
コンサルティングファーム
コンサルティングファームでは、職種や配属部門によりますが、プロジェクトで業務量や繁忙期のスケジュールが変わります。たとえば、IPOやM&Aなどのようにエンドが決まっているプロジェクトでは、納期までは非常に過密なスケジュールになる場合があります。その一方でプロジェクトが一段落したときに長期休暇の取得を奨励されるなど、ワークライフバランスに対する意識が高い会社も多く、先進的な取り組みも見られます。また、外資系を中心に給与水準が高い傾向にありますので、オン・オフのメリハリをつけて働きたい方にはマッチしやすいかもしれません。
事業会社
事業会社は、会計事務所・税理士法人と比較するとワークライフバランスが整っているといわれています。実際には会社の状況によりますが、事業会社の財務経理部門は月締めと決算期を除くと業務量が安定している場合が多く、年間を通しても残業は多くならない傾向にあります。特に大手企業はワークライフバランスのための各種制度の整備が進んでおり、働き方改革への対応にも積極的です。
<ココまでのまとめ>
・会計事務所・税理士法人は繁忙期の残業はあるが、税理士をめざすには良い環境。
・コンサルティングファームはメリハリをつけた働き方ができる。
・事業会社は、ワークライフバランスや働き方改革への対応に積極的な傾向。
ワークライフバランスを整えるための主な制度
従業員が働きやすい環境をつくるため、ワークライフバランスを整える制度を充実させる企業は増えており、さまざまな業種・業態で独自の制度や取り組みがみられます。
「仕事と家庭や育児を両立したい」方に向けた制度
育児・介護休業法により、雇用者は従業員が出産・育児や家族の介護をしながら働ける環境を用意することが義務づけられています。法令で定められている以上の制度を整備する企業も増えており、在宅勤務制度の導入や事業所内託児所を設置する企業もあります。男性の育休取得に力を入れる企業が多いです。
<法令で義務づけられる育児・介護休業制度>
・産前・産後休暇
・育児休暇
・子の看護休暇
・育児や介護のための時間短縮勤務
・介護休職
「残業をなくしたい・減らしたい方」に向けた制度
・フレックスタイム制度など、業務量の増減に対応する制度
個人の裁量で業務量と勤務時間を調整できるフレックスタイム制度を導入する企業は増えています。また、繁忙期の部門に対して余裕のある部門から応援要員を出すという取り組みをする企業もあります。
・ノー残業デーなど、残業しない意識を定着させる制度
定時退社をルールとして徹底し、ノー残業デーを設定したり、オフィスを消灯したりするなど「残業はしない」という意識を定着させる取り組みです。ユニークな例では、残業が多かった人に反省を促すための格好をさせるなどのペナルティを用意しているところもあります。
・残業の原因となる会議を改善する制度
会議のために残業しないよう、定時時間以降の会議を禁止する会社も増えています。長時間化を防止するために、会議室の利用時間を制限する、会議室の椅子をなくしてすべての会議を立ったままで行うなどの工夫もあります。
・深夜残業を削減する制度
フレックスタイムによって出勤時間が遅くなり、同じ残業時間でも深夜に及んでしまう場合があります。出勤時間が遅くなることで漫然とした長時間の勤務にならないよう、早朝出勤時の朝食を無料で提供するなど、朝型勤務を推奨する企業があります。
「資格取得のため」の制度
資格取得支援は、資格取得にかかる費用と試験準備のための時間短縮勤務や有給休暇が中心になります。費用面では、受検料や参考書、講習などの費用負担または補助と、試験合格後に奨励金などの形で支給される場合があります。また、資格取得経験者からのアドバイスやレクチャーなど、資格取得のノウハウを提供される場合もあります。
その他
・リフレッシュ休暇
永年勤続者などを対象に、長期の有給休暇の付与や旅行費用などを補助する制度。
・ユニークな有給休暇
年次有給休暇のほかに、誕生日、結婚記念日などを有給休暇にする例もあります。また、失恋のダメージを癒す自己申告制の有給休暇など、さまざまな業種でユニークな休暇の例があります。
<ココまでのまとめ>
・育児・介護中の休暇や時短勤務は、育児・介護休業法によって定められた従業者の権利。
・ワークライフバランスのための制度には、その会社の社風や経営方針が表れる。
ワークライフバランスを実現した転職成功事例3選
税理士免許取得のためのワークライフバランスを実現
https://zeirishi.mynavi-agent.jp/case_mt/big4/207.html
●プロフィール
大学卒業後、役場の税務課勤務を経て税理士事務所へ転職。
37歳男性 | 転職前 | 転職後 |
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業種 | 税理士事務所 | 大手税理士法人 |
業務 | 税務スタッフ | 税務スタッフ |
年収 | 300万円 | 340万円 |
●転職の理由
役場での税務課で個人・法人の税務業務に従事し、税務関連に関心を持ち、税理士免許取得のために税理士事務所へ転職したが、勉強する時間が取れないため退職を決意。
●転職成功の経緯
・学業を優先するため、残業なしの転職先を希望。
・地元の税理士法人37社に条件を確認したが適わなかった。
・唯一、大手税理士法人に仕事をしながら通学という条件を受け入れてもらえた。
・4科目合格、税理士事務所での実務経験が強みとなり、内定を獲得。