納税義務の成立・確定・消滅とは?憲法と国税通則法で確認
納税の方法は1つではありません。確定申告をしてから納めるものもあれば、源泉所得税のように自動的に決まるものもあります。実は、納税の義務には成立・確定・消滅という3つのプロセスがあるのです。今回は日本国憲法と国税通則法を通じて、納税義務の成立・確定・消滅とはどのようなものかを確認します。
目次
納税の義務とは何か?日本国憲法で確認
最初に納税の義務そのものが日本でどう扱われているのか、日本国憲法で確認しましょう。
国民主権から見た税
納税の義務は、日本国憲法の三大柱の1つである「国民主権」が前提となっています。国民主権とは「日本の主権者は国民である」というものです。「主権者として権利を行使し利益を享受するなら、納税という義務も主権者として自主的に担う」という考え方に基づいています。そのため、申告納税方式が原則となっています。
憲法30条における税
憲法の三大柱には、国民主権のほかに「基本的人権の尊重」というものがあります。その1つが財産権です。そして「納税をする」ということは国民1人1人の財産権を侵害することでもあります。そこで、憲法30条(納税の義務)では、次のように定めています。
第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
参照:日本国憲法|e-gov
「法律で定めるところにより」というのは、法律で定めた課税要件や税額以上に財産が租税で侵害されることはない、という意味です。
憲法84条との関係
納税については、憲法84条(租税法律主義)でも次のように定めています。
第八十四条あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
参照:日本国憲法|e-gov
この規定は、国家が一方的に国民に租税を課すことを制限するものです。すべて法律によらなければならないとしています。そして、税に関する法律は、国民の代表者が集まる国会で決められることとなります。
日本の納税義務の流れ
憲法30条と84条、そして国民主権により、租税は国民が申告という主体的な行為を通じて担うこと、しかし法律の定める範囲内であること、課税の内容は国会で採決された法律によることとされています。こういった背景を受け、国税通則法において納税は次のような過程を経て発生し、消滅する流れとなっています。
納税の義務の成立→納税の義務の確定→納税の義務の消滅
納税の義務の成立とは
最初に、納税の義務の成立について確認しましょう。
納税の義務の成立要件
「納税の義務の成立」とは、国民が国に対して租税(ここでは国税)を納めなくてはならない義務が生じることを言います。この納税の義務は、立場によって見方が変わります。国にとっては「国税」という名の金銭給付を請求する権利が、国民にとっては「国税」という名の金銭を納める義務が生じます。
ただし、何もない状態で義務が生じるわけではありません。憲法30条に定められている通り「法律の定めるところにより」納税の義務が成立します。言い換えると、法律の定める課税要件に当てはまったときに納税の義務が成立するのです。
成立の時期
「いつ納税の義務が成立するか」は、国税通則法で定められています。主な税目を見てみましょう。次の通りです。
区分 | 成立時期 |
---|---|
申告納税による所得税 | 暦年の終了の時(通則法15②-) |
源泉徴収による所得税 | 派泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時(通則法15②二) |
法人税および地方法人税 | 事業年度の終了の時(通則法15②三) |
相続税 | 相続または造贈による財産の取得の時(通則法15②四) |
贈与税 | 贈与による財産の取得の時(通則法15②五) |
消費税 | 国内取引...課税資産の譲渡等もしくは特定課税仕入れを行った時 輸入貨物...保税地域からの引取りの時(通則法15②七) |
印紙税 | 課税文書の作成の時(通則法15②十二) |
過少申告加算税、無申告加算税または重加算税 (申告納税方式による国税に対する加算税) |
法定申告期限の経過の時(通則法15②十四) |
不納付加算税または重加算税 (源泉徴収等による国税に対する加算税) |
法定納期限の経過の時(通則法15②十五) |
ただし、この段階では「国税を納める義務が成立した」だけです。「いくら納めなくてはならないのか」までははっきりとしていません。納める金額を明確にするのは、次の「納税の義務の確定」の段階で行います。
成立の効果
納税の義務が成立するということは、納税者と税務署(国、以下「税務署」)との間で「納めるべき税額がいくらなのか」を確定させるべき権利(税務署)と義務(納税者)が生じるということです。自動確定方式・賦課課税方式の国税を除き、基本的に納税者側で計算して申告しなくてはなりません。もし申告がなければ、税務署長に更正・決定を通じて決める権利が生じます。
このほか、税務署は災害などに応じて納税を猶予したりする権利も生じます。
納税の義務の確定とは?3つの方式を確認
納税の義務の確定とは「納めなくてはならない国税はいくらなのか」を確定させることを言います。日本の税制は「主権者である国民が自ら進んで納税の義務を負う」という国民主権の考え方から、申告納税方式が原則となっています。しかし実際には、課税の事情により、ほかの確定の方法もあります。
申告納税方式
申告納税方式とは、納税者が自ら課税標準等と税額等を計算して税務署に申告(納税申告)することではじめて納税額が確定する方式を言います。課税標準等と税額等をどう計算するかは、それぞれの税目にかかわる税法で定められています。この申告には、次の3つがあります。
- 期限内申告...法定申告期限内に提出された確定申告書
- 期限後申告書...法定申告期限を経過した後で提出された確定申告書。税務署長の決定があるまで提出できる
- 修正申告書...いったん提出した確定申告書に記載された税額が過少だったり、還付額が過大だったりした場合などに提出する修正のための確定申告書。税務署長の更正があるまで提出できる
賦課課税方式
例外的な納税の義務の確定方式です。税務署長等の処分により納税額が確定する方式を言います。密造酒の製造者などに課される酒税や行政制裁として課される加算税・過怠税など、その性質から見て納税者の申告納税方式になじまないものが賦課課税方式によることとなります。
自動確定方式
もう1つの例外的な納税の義務の確定の方式です。次の7つが自動確定方式により納税額が確定します。
- 予定納税の所得税
- 源泉徴収等による国税(源泉所得税など)
- 自動車重量税
- 国際観光旅客税(特別徴収以外)
- 印紙税
- 登録免許税
- 延滞税、利子税
これらの税目は、課税要件となる事実が明白であり、かつ税額の計算が容易であるため、税額の確定手続が不要です。そのため、納税の義務が成立するのとほぼ同時に税額が確定します。
納税の義務の消滅とは?4つのパターンを確認
上記2つのプロセスを経て確定した納税の義務(租税債務)は「納めること」で消滅します。この消滅には、次の4つのパターンがあります。
納付
確定した税額を金融機関などで払った時点で納税の義務が消滅します。相続税の物納を除き、金銭で納めます。原則、本来の納税者が納めますが、本人が納めない場合は、第二次納税義務者や国税の保証人などが納めることとなります。
滞納処分による換価代金の充当
確定した税額を納税者が自主的に払わない場合、納税者の財産から強制的に徴収されます。これを滞納処分と言います。納税者本人に支払うよう督促をし、それでも納付されない場合、財産調査の後に滞納処分が行われます。この場合の納税の義務の消滅時期は、滞納処分をした財産ごとに、次のようになります。
- 金銭...差押えの時
- 債権...差し押さえた債権の取り立ての時
- 上記以外の財産(不動産など)...差押財産の換価を行い、換価した代金を税務署等が受領した時
還付金などの充当
源泉所得税など、中には過誤納や還付金、還付加算金といった形で税務署が納税者に納めた税額の一部を返還しなくてはならないことがあります。このとき納めるべき税額があるのなら、納税額に充当する形で納税の義務の全部あるいは一部が消滅します。
免除
災害などに遭った場合、納めるべき税額が減免されることがあります。災害減免法による所得税の減免、納税の猶予による延滞税の免除、申告期限の延長による利子税の免除などです。
減額更正
更正の請求により、一度確定した税額の減額を納税者から申請され、税務署長が内容を調査して適正であると認めると、確定税額の全部または一部を減額する更正あるいは賦課決定が行われます。
まとめ
今回は、納税の義務の成立から消滅までの流れを確認しました。どの段階で租税債務が成立・確定・消滅するのかを押さえておくと、日常業務の見え方が変わります。また、相続税の課税標準等の計算でもポイントをつかみやすくなるかもしれません。「顧問先のこの状況は、今どの段階にあるのか」をたまに意識してみることをおすすめします。
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