英語ができる税理士は強い?求められるスペックや活躍できる場面を解説

英語ができる税理士は強い?求められるスペックや活躍できる場面を解説

21世紀になり、ヒト・モノ・カネは国境を越えてやりとりされるようになりました。今や、海外企業の日本進出や日本企業の外国会社との取引・海外進出は、めずらしくありません。税理士にも英語力や日本と外国の税制に精通する専門性が求められるようになっています。しかし、このニーズに応えられる税理士はまだ少ないのが現状です。今回は、英語力のある税理士の強みや求められるスペック、活躍できる転職先をお伝えします。

鈴木 まゆ子

鈴木 まゆ子

税理士・税務ライター

2000年中央大学法学部法律学科卒業。㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て、2012年税理士登録。税金の正しい知識を広めるべく、WEBを中心に多数の記事執筆・税務監修を行う。分かりやすい解説に定評がある。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。

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なぜ英語力のある税理士が求められるのか

以前から英語力のある税理士は高く評価されていました。しかし最近はますます需要が高まっています。なぜでしょうか。背景には次の3つがあると見られます。

日本の少子高齢化

1つは日本の少子高齢化です。高度成長期を過ぎて以降、高齢者は増える反面、出生率は低下しています。人口増加と停滞は2010年までで終わり、2011年からは人口が減少しています。

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参考:人口減少社会、少子高齢化|出典元 総務省統計局

人口が減少するということは、その分、経済も縮小していきます。そのため、海外に活躍の場を求めて英語力をみがく税理士も少しずつ増えていると見られます。

日本企業のグローバル化

これまで日本企業の多くは、国内でのみ取引を行っていました。そのため、税理士も日本国内での申告書が作成できればよく、業務の上で高い英語力を求められる場面はほとんどありませんでした。

しかし、経済のグローバル化によって、日本の企業も国境を越えて活動するようになりました。その証拠に現在、IFRS(国際財務報告基準)を導入する日本企業が増えています。また、大企業でなくても、日本にいながらにして海外と取引する中小企業や個人事業主もめずらしくなくなりました。

こういった状況になると、当然のことながら税理士にも英語力が求められます。また、海外へ進出している日本企業を担当するときも同様です。進出先の税法など理解するのに、最低限英語はあった方がよいとされます。

海外企業の日本進出

近年、税理士事務所のクライアント企業に外国企業や外国人が増えました。日本でスモールビジネスを始めたい外国人や外資系企業、不動産投資をしたい外国の投資家が増えているためです。一時、コロナ禍で激減しましたが、コロナが収束しつつある2023年以降、再び日本に販売チャネルや投資先を求めて外国企業や外国人は増えると見られます。

これにともない、税理士も、英語でのミーティングやプレゼンテーションの機会が必然的に増えていくと見られます。税務の専門性の高い税理士が多い中、英語力が高ければ、選ばれやすくなるかもしれません。

英語力のある税理士が活躍できる場面

税理士に英語力のあると、どのような業務を任されることが多いのでしょうか?具体的な仕事内容について見ていきましょう。

国際税務

国際税務とは、企業が国境を越えて取引を行う際に発生する税務のことです。大企業だけではなく、最近では中小企業においても国境を越えた人や物の取引業務が増えています。2国間で国際取引を行う場合、自国だけではなく、取引国での税法にのっとることが求められます。

2国間あるいは多国間でビジネスをする際には、それぞれの国の税法に対応することが不可欠です。英語力があれば、こういった税務に対応しやすくなる期待値は高まります。必然的に国際税務を任される場面が多くなると見られます。

移転価格コンサルティング

「移転価格」とは、親会社と子会社など、国境をまたいでグローバルに事業展開するグループ企業間での取引価格のことです。自由な価格で取引できると思われがちですが、実は違います。2国間での税率や税制の違いを利用した租税回避を防ぐため、海外子会社などとの取引については、移転価格税制の対象となっているのです。多国籍企業にとってはこの税率の違いをしっかり把握していないと、同じ利益にもかかわらず多額の税金を支払う必要が生じるおそれがあります。

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参照:移転価格に関する国税庁の取組方針|出典元 国税庁

こうしたグループ企業間の国際取引に際しては、国際税務に長けた税理士が問題の生じないように対処するコンサルティング業務が増えています。移転価格コンサルティングでの具体的な業務では、現地の税法制をリサーチしたローカルファイルの作成、移転価格についてのポリシーの構築、そして国別の報告書やマスターファイルの作成などがあります。

外資系の日本支社・支店の顧問

ヒト・モノ・カネがグローバル化すると、個人が国外で資産を保有・運用したり、資産を移転させたりするケースも増加します。しかし、海外に移転させれば、課税を免れるというわけではありません。現在、OECDの加盟国の税務当局が共通報告基準(CRS)にのっとり、お互いの金融情報を交換しています。

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参照:「報告対象国」一覧表 (令和4年12月28日施行)|出典元 国税庁

国際資産業務は、そうした資産移転により生じる所得税・相続税・贈与税にかかるクロスボーダーな課税、海外移住などに伴う諸問題を解決する業務です。具体的な業務としては、海外資産の所得税申告や相続税・贈与税申告、現地での税務署や税務調査への対応、また海外資産の相談業務などがあります。また、国外転出時課税制度などの新しい制度にも対応するのが、国際資産税の業務です。

このほか、地域統括会社(現地法人)の設立や、グローバルな組織再編(国際間M&A)などのコンサルティング業務を税理士が担当する場合もあります。

英語力のある税理士に求められる要素

英語力のある税理士であれば、引く手あまたです。とはいえ、英語力さえあればいいというものではありません。また、英語力も相応のレベルが求められます。

英語力

「TOEIC700以上」という条件で求人を行っている会計事務所が目立ちます。日本の英検でいうと、2級から準1級のレベルです。読み書きやリスニングに苦労しないレベルとしてこの水準が設けられているものと見られます。

法人税

国際税務や移転価格業務を行う上では必須です。移転価格税制や過小資本税制は、法人税法上の規定となっています。もちろんこれだけでなく、日本国内での業務と同様、青色欠損金や交際費、役員給与などへの理解も必要です。

所得税

日本は全世界所得課税です。そのため、日本の居住者は、日本国外で行った投資の収益についても税金を納めなくてはなりません。租税条約で一方の国での課税が免除されているケースもありますが、そうでないケースもあります。また、外国税額控除の判断も必要となります。さらに、最近は非居住者による日本での経済活動も増えています。このとき、源泉所得税の扱いを細かく知っておく必要があります。

相続税・贈与税

少子高齢化で今後相続税・贈与税に強い税理士は需要が高まっていくと見られます。この中には海外資産の相続・贈与に強い税理士も含まれます。評価のしかたも、財産によって異なるため、深い理解が求められます。

消費税

少し前まで、国際税務において消費税はそれほど重い問題ではありませんでした。しかし2015年10月1日以降、海外からの動画やゲームの配信については、リバースチャージ方式によりサービスを利用した国内の課税事業者側が消費税を申告することとなっています。うっかりすると課税もれということがあるかもしれません。

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参照:国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について|出典元 国税庁

また、2023年10月から始まるインボイス制度では、国外事業者も登録が必要なことがあります。こういったことも押さえておく必要があります。

このほかの要素

このほか、民法や会社法への理解も求められます。というのも契約や法人形態はこういった私法に規定されるものだからです。海外の法律が日本のどの法律に当たるかの見極めが必要となることもあります。

税理士が英語力を活かせる転職先

それでは、英語力のある税理士がその能力を活かせる転職先としてどのような職場があるのか、具体的に見ていきましょう。

大手税理士法人

税理士法人の中でも、最大手の4社(PwC税理士法人、デロイト トーマツ税理士法人、KPMG税理士法人、EY税理士法人)は「Big4」と呼ばれています。これらの税理士法人はグローバル展開する世界的な会計事務所の日本支部という位置付けです。そのクライアントは大手企業やその関連会社、グローバル企業、外資系企業(小規模企業を含む)、金融機関などが中心となっています。

Big4へ転職する場合には高い英語力を持つことは必須で、部門によってはバイリンガルレベル、一般的にはTOEIC700点以上か同等の英語力が目安とされています。

一般事業会社

一般事業会社の場合、先ほども説明したように、IFRS(国際財務報告基準)を導入する企業が増えています。IFRSを導入した企業は、社内の経理・税務部門においてもIFRSに基づいた業務が発生するため、英語力のある税理士が求められます。

また、国内企業でも製造部門を海外に移したり、グローバル化により世界各国との取引が増えたりしています。こうした企業でも英語力があり、国際税務の知識のある税理士に対するニーズは高まっています。さらに外資系企業では、日本法人の決算対応、本国へのレポーティング業務などもあります。中級から上級の英語力があれば、外資系企業への転職の道も開けます。

金融機関

金融機関の中でも、特に英語力のある税理士に対するニーズが高いのが外資系投資銀行です。外資系投資銀行の場合は、業務だけではなく、社内に外国人の行員が多数働いているため、日常のコミュニケーション手段としても英語が必須です。一方、日系投資銀行の場合でも、クロスボーダー(国際間取引、M&Aなど)の増加に伴い、英語力がある税理士が求められています。

コンサルティングファーム

近年、税理士の転職先として人気の高いのが、コンサルティングファームです。特に戦略系コンサルティングファームは、企業の経営課題を発見したり、その課題解決のための経営戦略を立案・遂行したりして、クライアントの組織改革や業務改革などをサポートする業務となります。

グローバル企業をクライアントに持つ戦略系コンサルティングファームは、税務・財務・経営の知識と英語力が求められます。

英語力を身に付けて市場価値の高い税理士になろう!

国際競争力を求められる企業が増えている一方で、英語力を持った税理士はまだまだ少ないのが現状です。そのため、英語力のある税理士は希少価値があり、転職に際しては多様な選択が可能となります。

そればかりではなく、専門性が高くやりがいのある業務を任されたり、大企業や外資系企業に転職したりすることで、キャリアアップや年収アップも望めます。英語力を高めて、グローバルに活躍できるよう準備を整えおくといいかもしれません。

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