「法人成り」の手続きとは?どんな申請・届出が必要?注意点も解説

「法人成り」の手続きとは?どんな申請・届出が必要?注意点も解説

個人事業を営んできた顧問先から法人設立を依頼されることがあります。注意したいのが税務・労務の手続きです。ゼロから法人設立と違い、個人事業についても配慮しなくてはなりません。今回、個人事業の法人成りで必要な税務・労務の手続きと注意点を解説します。

鈴木 まゆ子

鈴木 まゆ子

税理士・税務ライター

2000年中央大学法学部法律学科卒業。㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て、2012年税理士登録。税金の正しい知識を広めるべく、WEBを中心に多数の記事執筆・税務監修を行う。分かりやすい解説に定評がある。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。

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法人成りとは

法人成りとは、個人事業主が法人を設立し、それまで行っていた個人の事業を法人の事業にすることを言います。当初、個人で事業を開始しても、時間の経過とともに事業規模の拡大や取引先の要請などから法人化が必要となることがあります。こういった場合、個人事業主は法人を設立し、そちらに事業を移し替えるのです。

法人成りと「ゼロから法人設立」との違い

法人を設立する場合、2つのパターンがあります。1つは今回お話しする「個人の事業の法人化」、もう1つは個人がゼロから法人を設立して事業を行うケースです。一見、どちらも同じですが、次のような違いがあります。

取引、商品、固定資産、従業員がいる

ゼロからの法人設立は、通常何もありません。法人を設立してから事業を開始します。一方、法人成りは、すでに個人が行っている事業を法人に移します。そのため、販売する商品や製品、取引先、固定資産や従業員が存在しています。こういった事業資産をどうするかを考えなくてはなりません。

法人設立だけでなく個人事業の廃業も手続きが必要

ゼロからの法人設立は、設立する個人がこれまで事業を行っていないことが前提です。そのため、手続きは法人の設立だけを行います。一方、法人成りは法人設立だけでなく個人事業の廃業手続も必要です。

法人成りの手続きの流れ

法人成りの手続きは、次の手順で行います。

1.会社の概要を決める

「個人事業を法人化する」と決めたら、まずは会社の概要を決めます。具体的には、次のような内容です。

  • 法人の形態(合同会社、株式会社など)
  • 法人の名称
  • 法人の所在地
  • 株主・社員を誰にするか、何人にするか
  • 資本金・出資金
  • 法人の目的(事業内容)
  • 事業年度、決算期

なお、定款の記載例は日本公証人連合会のWebサイトにあります。

参照:9-4定款認証(公証事務)|日本公証人連合会

2.定款を作成する

1で決めた内容を基に、定款を作成します。定款とは、法人の基本的なルールを定めたものです。ここに法人の目的、組織、活動、発起人、構成員などを記載します。

公証役場で定款認証(合同会社は不要)

株式会社や一般社団法人など、法人の形態によっては公証役場での定款認証が必要です。定款認証とは、裁判官や検察官などで法律に関する事務に長年携わった公証人が「この定款は正当な手続きに基づいて作られたものである」ことを証明することを言います。

なお、合同会社は定款の認証は不要です。株式会社は会社経営を取締役が行い、株式を株主が所有する形態をとっています。会社の経営と所有が分離しているがゆえに争いが起きる可能性があります。そのために定款認証が必要となるのです。一方、合同会社は会社の経営主体と所有主体が一致しており、争いの懸念がありません。そのため、定款認証をしなくてもよいとされています。

法務局で登記

定款認証を終えて資本金や出資金の払い込みが終わったら、法務局で登記手続きを行います。登記とは、法務局の帳簿(登記簿)に登録し、公に法人名や所在地、役員の構成を知らしめる法的な制度を言います。登記の種類は次のようになります。

  • 商業登記...株式会社、合同会社、合名会社、合資会社などの会社の登記
  • 法人登記...一般社団法人、一般財団法人、NPO法人など上記以外の法人の登記

こういった設立のための登記を完了することで法人格を取得します。

税務・労務で開始手続き

登記が完了したら、登記事項証明書の取得や法人の印鑑登録のほか、税務や労務での各種手続きを行います。

法人成りで行うべき税務・労務の手続き①法人の設立

個人事業の法人化の場合、税務・労務の手続きでやるべきことは2つあります。1つは法人の設立に伴う各種手続きです。株式会社か合同会社を設立した場合、通常は次の書類を自社の管轄の各行政機関に提出します。

税務署

  • 法人設立届出書...法人の設立登記の日以後2か月以内に、定款の写しとともに提出
  • 青色申告の承認申請書...青色申告の特典を受けたい場合、法人設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までに提出
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届...自社の役員や従業員に給与を支払う場合、通常は法人設立した日から1か月以内
  •  源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書...給与の支給人員が常時10人以下で給与等の源泉所得税の納付を年2回にしたい場合、対象とした給与等の支払月の前月中に提出(期限はなく、申請書の提出日の翌月の支払給与から適用される)
  • 適格請求書発行事業者登録届出書...BtoBビジネスなどによりインボイスを発行したい場合に提出。本来、提出日から15日以降の日に登録希望日(インボイスの発行が可能となる日)を設定できるが、法人の新規設立については事業を開始した事業年度の初日を登録日とすることができる

このほか、棚卸資産の評価方法の届出書や消費税の課税事業者選択届出書などを提出することがあります。

都道府県事務所・市町村

  • 法人設立・設置届出書...原則として設立以後2か月以内(「都税事務所は15日以内」など例外あり)に定款の写しとともに提出

労働基準監督署

雇用する従業員が1人以上いたら提出します。

  • 労働保険関係成立届...適用事業所となった日の翌日から10日以内
  • 概算保険料申告書...適用事業所となった日の翌日から50日以内
  • 適用事業報告...遅滞なく

公共職業安定所(ハローワーク)

常時雇用する従業員が1人以上いたら提出します。

  • 適用事業所設置届...適用事業所となった日の翌日から10日以内
  • 被保険者資格取得届...従業員を雇用した月の翌月10日まで

年金事務所

法人はすべて強制加入です。原則、設立以後5日以内に次の書類を提出します。

  • 新規適用届
  • 被保険者資格取得届

このほか、加入者に扶養親族がいる場合、被扶養者届なども提出します。

法人成りで行うべき税務・労務の手続き②個人事業の廃止

法人成りの場合、もう1つ行うべき手続きがあります。個人事業の廃止に伴う手続きです。次の書類を管轄の各行政機関に提出します。

税務署

  • 個人事業の開業・廃業等届出書...廃業の事実があった日から1か月以内に提出
  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書...青色申告をしていた場合、取りやめようとする年の翌年3月15日までに提出
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届...自社の役員や従業員に給与を支払っていた場合に廃業から1か月以内
  • 源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書...納期の特例の適用を受けていた場合に遅滞なく提出
  • 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書...インボイスを発行していた場合に提出(失効させたい課税期間の初日から起算して15日前までに提出しないと失効が1課税期間分だけ遅れる)

このほか「簡易課税制度を選択していた」などがあれば、それに伴う廃止の手続きを行います。

都道府県事務所

  • 事業開始(廃止)等申告書...事業廃止の日から10日以内

上記のほか、従業員を雇っていたなどの事情があれば、労災保険・雇用保険などの手続きも労働基準監督署やハローワークなどで行う必要があります。

注意点

個人事業を法人化するにあたり、次の点に注意しましょう。

消費税の手続きは要確認

法人成りで怖いのが消費税です。法人の資本金が1000万円を超えるのであれば、特定法人として設立事業年度から消費税の申告・納税を行わなくてはなりません。また、インボイス登録をしない場合、初年度に売上がほとんどなく消費税のかかる支払が多額であれば、課税事業者選択届出書を提出しておかないと消費税の還付を受けられません。

また、個人事業を廃止しても、簡易課税の選択や課税期間の短縮を行っていたのであれば、それらを止める手続きもあわせて行っておきましょう。不適用などの届出を出さない限り、過去に提出した届出書の効力が生きているからです。

個人事業の後処理にも注意

年の途中で法人成りした場合、しばらくは個人の方でも所得税や消費税の確定申告が必要となることがあります。また、個人事業で従業員給与を支払っていた場合、源泉所得税の納付や年末調整などの手続きもあります。

個人事業主時代の棚卸資産や固定資産、契約などを慎重に

法人成りをする場合、悩みの種となるのが「個人事業主時代の事業資産をどうするか」です。「現物出資とするか譲渡にするか」「取引先や被雇用者との契約」といった課題があります。法人成りする前に顧問先と打合せし、意思確認をていねいに行っていくことが必要です。

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