個人のインボイス登録、2024年以降だとムダに納税する?「2年しばり」と対処法を解説

個人のインボイス登録、2024年以降だとムダに納税する?「2年しばり」と対処法を解説

2023年10月からのインボイス制度では、1000万円以下の個人事業主が登録に合わせて免税事業者から課税事業者になるケースが増えると見られます。心配なのが「免税に戻りたい」と思ったときです。手続きは紙1枚ですが、登録時期によっては免税に戻れるタイミングが遅くなります。今回は登録抹消と免税転換のタイミングを解説しつつ、納税期間を短く抑える方法をお伝えします。

鈴木 まゆ子

鈴木 まゆ子

税理士・税務ライター

2000年中央大学法学部法律学科卒業。㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て、2012年税理士登録。税金の正しい知識を広めるべく、WEBを中心に多数の記事執筆・税務監修を行う。分かりやすい解説に定評がある。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。

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個人事業者がインボイス登録で「免税→課税」になる時期はいつか

免税事業者は、2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間中、「適格請求書発行事業者の登録申請書」1枚で、インボイスの発行事業者と消費税の課税事業者に同時になります。

「免税→課税」のタイミングは、発行事業者として登録した日です。課税期間の初日でなくても、いつでも登録できます。発行事業者として登録した時点でインボイスを発行できる一方、消費税の課税事業者としての申告・納税の義務も生じます。

個人事業者のケースを図にすると、次のようになります。

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なお、登録日は、登録申請書の提出日から15日を経過する日以後の日に設定しなくてはなりません

※画像内の記載に、一部誤りがございました。お詫びして訂正いたします。(2023年9月29日)

インボイスの登録抹消の手続きと失効の時期とは

インボイスの登録を取り消す手続きも考えてみましょう。手続きの内容とインボイスの失効の時期は、次のようになります。

手続き

インボイスの発行事業者の登録を取り消すときは「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出します。

登録申請書1枚でインボイスの発行事業者になり、かつ消費税の課税事業者になったのであれば、この届出書1枚でインボイスの登録を抹消し、かつ免税事業者に戻れます。ただし、条件によっては免税事業者に戻れないこともあります(詳細は後述)。

手続きの期限と失効の時期

登録のときと異なり、登録抹消は課税期間ごととなります。思い立ってすぐに発行事業者をやめることはできません。

登録を抹消するときは、登録を取り消したい課税期間の初日から起算して15日前までに登録取消の届出書を提出しなくてはなりません。2025年からインボイスを失効させたいなら2024年12月17日までに届出の提出が必要です。

「課税→免税」の時期は「いつ登録したか」で変わる

登録抹消時は「課税→免税」の時期に注意しなくてはなりません。登録取消の届出をしても、翌課税期間から免税に戻れるとは限らないのです。「いつ登録したか」で免税事業者に戻れる時期が変わります。

個人事業者だと、次のように「課税→免税」の時期が変わります。

23年中の登録

まず、2023年10月1日の属する課税期間中に登録して「免税→課税」となった事業者です。登録取消の届出を期限内に出せば、翌課税期間から免税事業者に戻れます。

個人事業者だと、2024年12月17日までに登録取消の届出書を出せば、2025年から免税事業者になります。

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2024年1月1日の登録

2023年10月1日の属する課税期間が終わってから登録すると、「免税→課税」に戻れる時期が遅くなります。原則通り、申告・納税の2年しばりが発動するからです。ここでいう2年しばりとは「登録した日から2年を経過する日の属する課税期間」を言います。

2024年1月1日に登録した個人事業主だと、どんなに早くても2026年からでなければ免税事業者に戻れません。

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※画像内の記載に、一部誤りがございました。お詫びして訂正いたします。(2023年9月29日)

2024年1月2日以降の登録

2024年1月2日以降の登録だと、2年超、消費税を納めなくてはなりません。2023年10月1日の属する課税期間の次の課税期間以降に登録すると2年しばりが発動するからですが、1月2日以降だと「登録した日から2年を経過する日」は課税期間の末日になりません。2年しばりは実際「2年超しばり」となるのです。

個人事業者が2024年1月3日の登録した場合、どんなに早くインボイスの登録取消の届出を出したとしても、「2024年1月3日から12月31日まで」「2025年」「2026年」は消費税の申告と納税を行うことになります。

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2024年以降の登録で納税期間を短くする方法

2024年以降の登録だと、登録した日によっては、3年近く消費税を納めることになります。できることなら余分に納税したくないものです。とはいえ、2年しばりはどうにもなりません。納税期間を最短の2年にするには、次のような対策を取るのがよいと思われます。

2024年1月1日に登録する

「登録日から2年を経過する日の属する課税期間」まで納税義務がある、ということは「2年を経過する日=課税期間の末日」になるように登録日を設定すればいいわけです。個人事業主であれば、その年の1月1日に登録日を設定します。ただし、登録申請書は、1月1日から起算して15日前までに提出しなくてはなりません。

事前に課税事業者選択届出書を提出する

「インボイスの登録は課税期間中にしたい、でも納税期間はできるだけ短くしたい」というのであれば、登録する課税期間の初日の前日までに課税事業者選択届出書を提出するのも一つの方法です。

この用紙を提出すると2年しばりが「登録日から2年を経過する日の属する課税期間まで」ではなく「課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間」となります。つまり「2年を経過する日=課税期間の末日」となるので、2年ぴったりで納税義務を終わらせることもできるわけです。

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ただし、この方法を取るとデメリットがいくつか生じます(詳細は後述)。

開業なら登録申請書に一言書く

「24年以降に開業し、インボイスに登録する」というケースもあるでしょう。この場合は、登録申請書に一言「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を書きます。そうすると、登録の効力も納税義務も課税期間の初日に生じたとみなされるのです。個人事業者であれば、その年の1月1日に発行事業者と課税事業者になったとみなされます。

なお、この登録申請書は、開業した課税期間中に提出が必要です。

注意点

インボイスの登録抹消にともなう納税義務については、次のような注意点があります。

登録取消をしても免税に戻れないことも

インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった事業者が登録抹消をしたからといって、納税義務が消えるとは限りません。本稿でお伝えした期限を守ったとしても、です。次のいずれかにあてはまると、登録抹消をしても消費税の申告・納税は必要です。

1. 基準期間または特定期間の課税売上高もしくは給与等の支払額の合計額が1000万円超である
2. 課税事業者選択届出書を提出した
3. 本則課税で消費税を申告していた期間中に調整対象固定資産や高額特定資産を取得し、取得した課税期間の初日から3年を経過していない

2は、登録抹消とは違う手続きをすれば納税義務は消えます。ただし、1や3に当てはまらないことが条件です。

※1の記載に、一部誤りがございました。お詫びして訂正いたします。(2023年9月29日)

ダブルロックに注意

課税事業者選択届出書を提出したインボイスの発行事業者は、登録申請書1枚だけ出した事業者とは別の注意があります。それは「登録取消の届出書を出しただけでは免税事業者に戻れない」ということです。

「課税事業者選択届出書+登録申請書」のダブルロックがかかっているため、登録取消の届出をしても、インボイスが失効するだけです。消費税の納税義務はなくなりません。消費税の申告納税の義務もなくしたいなら、課税事業者選択不適用届出書を提出する必要があります。

また、課税事業者選択届出書を提出して2023年から課税事業者となっている場合は、2割特例の適用についても注意が必要です。

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