都会と地方では人口や会社などの規模が違うので、税理士へのニーズの規模も違います。
都会のようにニーズの規模が大きければ、税理士はたとえば『法人専門』『相続専門』という具合に、スペシャリストとして特化した形での業務が成り立ちますが、私が住んでいる市のように、人口が数十万人の地方ですとそれは難しいです。税理士は基本事務所がある地域の事業者が顧問先になるので、特化した形で成り立つほど人口の規模がない地方の場合は、どうしてもスペシャリストとしては税理士業務が成り立ちにくいものなのです。
私自身も分野を絞らずに法人、個人の決算・申告業務を中心に、顧問先の相続税申告業務も行っています。お客さまの業種もさまざまですので、いわゆるジェネラリストタイプの税理士といえるでしょう。

さて、地方で私のようなスタイルで税理士業を行うことの魅力をお伝えできればと思います。
まず1つめとして、ジェネラリストタイプの税理士として働くことで、さまざまな知識・能力が身に付くという点があります。会計処理、個人の所得税申告、法人の法人税申告、相続税申告とお客さまの多種多様なニーズに応えるうちに、多くのことができるようになります。
また、個人・法人を問わずさまざまな業種のお客さまと接することで、異業種に対する見識を広げられるという点もあります。業種によって仕事内容はさまざまですし、考え方なども違いますので、とても良い勉強になっております。また各業種の経営者の方々とお話しすることで、どのようにして売上を上げて利益を出そうとしているかなど業種ごとのビジネスの構造を勉強することができ、学んだことを自身の経営に活かすこともできます。
ほかには、都会と比べて他人との関係がサバサバしておらず、お客さまと密な付き合いができるという点があります。私自身地元に戻る前は都会でサラリーマンをしておりましたので、都会と地方での人との距離の違いはよくわかっているつもりです。税理士業でいえば、都会だとお客さまとのやり取りをチャットワークなどのツールを使って行うことも多いですが、地方ですと直接会ってお話をすることが多いです。都会の方が進んでるがゆえの違いかもわかりませんが、対面の文化が強く残っている点は地方の特徴であり良い点であるといえるでしょう。

都会と地方は税理士の働き方が違うといいましたが、税理士を取り巻く環境も大きく違うと思います。
一時期よくいわれていた、税理士業がAIにとって代わられるという話は税理士業務の一部については当てはまることで、残る業務も当然あります。AIに取られる一部の業務についても、都会と地方ではITの浸透に差があります。地方だとIT、AIは都会と比べて明らかに浸透していません。これは悪い点なのですが、手書きの伝票や出納帳など昔から使われているものがいまでも根強く残っています。税理士業務を乗っ取られる心配をする以前に、乗っ取られる環境にいない人もけっこう多いので、地方では当面の間は記帳代行など従来からある税理士業務も、寿命があると予測しております。AIに取られるという世間でよくいわれていることは、どうしても都会が基準となっている情報ですので良くも悪くも地方には当てはまらない場合も多いのです。
そのような環境のなかで、地方で働く税理士は今後どうすればよいのか？　ということについてですが、記帳代行などの業務は当面は残ることが予測されるとはいえ、ある程度の時間が経った将来には自動化されてなくなると考えられるため、いまのうちからなくなった後のことも考えておくべきでしょう。自分の将来の食いぶちがなくなった後に、代わりに何を飯の種にしていくかはすごく大事だと思います。

地方の税理士事務所の特徴と、地方で税理士業を行うことの魅力についてお話ししました。税理士をめざす人は自分がいまいる環境が都会か地方かという点も考慮に入れる必要があると思います。それによって業務内容も変わるからです。いま住んでいるところが税理士業務を行ううえで自分の望む環境でなければ、極端ではありますが引っ越すなどして環境を変えるのもありだと思います。