資格予備校の数字を鵜吞みにしてはいけない!?税理士試験突破にかかる本当の勉強時間
税理士業界は高齢化が進み、若手には今後活躍の機会が多いとも言われています。受験者数は減少傾向であるものの、税理士はいまだ根強い人気を誇る資格。しかし、その試験合格に至るまでに必要な勉強時間については、資格予備校ホームページなどに記載された情報を信用するのは危険かもしれません。今回は筆者の経験に基づき、合格科目の勉強時間や勉強方法、さらに筆者がいわゆる「院免」を選択した理由などについてご紹介します。
<参考>
▼筆者の税理士試験通過までの経緯
・平成24年:税理士 簿記論・財務諸表論 受験⇒合格
・平成26年:税理士 法人税法 受験⇒不合格
・平成27年:税理士 法人税法 受験⇒合格
・平成28年:税理士 事業税 受験⇒不合格
・平成29年:大学院 入学
・平成31年:大学院 卒業
・令和2年 :国税庁から税理士試験免除決定通知書受領
税理士試験受験を決めた経緯
私は以前、シンクタンクの企画部門に勤めていました。コンサル系の部署への異動を希望しており、そのために行っていたのが、中小企業診断士や社会保険労務士の資格を取得するなど自己研鑽です。数年後、念願かなって異動したものの、そこでは主に法人に対する財務会計面の助言ができるスキルを習得するよう求められました。そこで、簿記1級や税理士試験への挑戦を検討。悩んだ結果、1科目ずつチャレンジすることが可能で、そのステータスにも憧れがあった税理士試験を選択しました。
中小企業診断士と社労士の試験は共に1回で合格。そのため当時、資格予備校の税理士試験に関する各科目の勉強時間の目安などを参照し、正直なところ5年あれば合格できるだろうなどと考えていました。
3科目合格に至るまでの勉強時間と勉強方法
簿記論・財務諸表論の勉強時間と勉強方法
はじめに着手した科目は、多くの受験生と同様に簿記論と財務諸表論です。4月から予備校に通い勉強を始め、翌年の8月に同時受験して、運よく2科目とも合格することができました。簿記論は自信がありませんでしたが、恐らくギリギリのラインでボーダーを超えたのだと思います。
予備校などでよく言われることですが、この2科目は親和性が高く、ある程度の勉強時間が確保できるのであれば同時に勉強するのが効率的でしょう。なぜなら簿記論を勉強していれば、それだけで財務諸表論の計算問題の大半は合格レベルに達することができると考えられるためです。
私自身は1年5カ月程度の期間で、概ね1300時間程度の勉強を行ったと記憶しています。大手予備校の勉強時間の目安がどちらも450時間だったため、合計時間はこの1.5倍を目標に。当時はまだ子供もおらず、プライベートな時間の多くを勉強に割くことができたため、勉強時間も概ね目標を達成し合格を勝ち取ることができました。具体的な勉強方法について、科目ごと特に注意した点をご紹介します。
・簿記論
簿記論の試験内容の特徴は、何といっても圧倒的なボリュームです。そのうえ、問題自体もひねられたものが多いため、時間内に完答するというのは基本的に不可能でしょう。そのため非常に重要なのが、どの問題に手を付け、どの問題に手を出さない(捨てる)かの判断。慣れないうちは仕事で検討することが多い論点(例えば私の場合は税効果会計など)が出題されると、そこにこだわって時間を無駄にすることが少なくありません。しかし数多く問題をこなすうち、素早く峻別できるようになりました。
・財務諸表論
財務諸表論は理論と計算が半々の割合で出題されます。予備校の講師の発言で非常に印象的だったのは、「理論を覚えるのは大事だが、税法と違い財務諸表論の理論は最終的に作文大会になる」といった趣旨のものでした。つまり会計基準の内容を理解し、それをある程度自分の言葉で表現できれば、一定の点数はもらえるということ。私は、そう解釈しました。実際には、理論よりも計算で点数を稼ぐのがセオリーな科目だと思います。しかし私の場合、丸暗記より規定の趣旨や背景を理解することに楽しみを覚えるタイプのため、財務諸表論は楽しく勉強することができました。
法人税法の勉強時間と勉強方法
簿財合格後、3科目目は法人税法を選択しました。法人税法を選択したのは、仕事の中で中小企業の経理実務では、企業会計基準というより法人税法の規定を主としたいわゆる「税務会計」が重要であることを痛感したためです。
簿財受験後の翌年は準備不足で受験を見送り。そのため、1回目の受験は実質的に1年半超の勉強期間で臨んだのですが、結果は不合格でした。現在は不合格の場合点数が通知されるようですが、当時はA~Dのランクが通知される仕組みのため私はB判定。さらに翌年、引き続き法人税法に専念し、2回目の受験でなんとか合格を勝ち取ることができました。
法人税法については、足掛け3年で合計1,800~2,000時間程度を勉強時間に費やしたと思います。法人税法はとにかく勉強内容のボリュームが膨大。さらに試験に影響する税制改正も多く、一度押さえた箇所もしばらくすると忘れてしまうなど、いくら勉強しても時間が足りないというのが率直な感想です。個人的には法人税法単独で、診断士試験・社労士試験のどちらよりも難しいと感じました。
ただし法人税法の勉強自体は、日々のコンサル業務にも非常に役立つことになります。また、理論暗記は必要なものの事例問題が多く、単純に暗記した条文を書きなぐるという試験ではなかったため、基本的に勉強が苦痛ではありませんでした。法人税法はあまりに範囲が広いので、よく「この論点(例えば組織再編税制)は捨てる」という選択をする方も少なくありません。しかし、私はそれなりの時間を法人税法に専念していたため、基本的に満遍なく勉強したつもりです。
個人的に法人税法の勉強でもっとも苦しかったのは、試験研究費など租税特別措置法の税額控除関連の理論・計算でした。措置法は理屈というより力技で数値を含めた条文や計算式を覚えるという要素が強く、せっかく覚えても毎年のように改正されます。そのため、また覚え直しとなることもあって苦手意識を持っていました。この点、2回目の受験の際は試験前日に仕事を休んで措置法の計算式を叩き込んだところ、運よくその問題が出題されて無事に合格することができました。
大学院進学へ方針転換した理由と大学院で学んだこと
事業税受験で変わった税理士試験に対する考え方
法人税法受験後は合格の自信がなかったこともあり、試験後は法人税法の学習の継続と消費税法を独学で勉強していました。合格がわかると、次の試験まで時間がないことなどから、消費税法ではなく法人税法と親和性があるといわれる事業税を勉強することに。事業税1本に絞ったのは、この頃に子供が生まれ、休日である土曜日は妻が仕事のため子供の面倒を見なければならず、十分な勉強時間を確保することが難しかったという事情もあります。
実際に事業税の勉強を始めてみると、少なくとも受験上は、法人税法を勉強していて有利といったことは基本的にないと感じました。事業税の課税所得の算出過程は法人税法とほとんど重複しているものの、試験において法人税法で聞かれたことが事業税でも聞かれることはほぼないため。つまり、前述した簿記論と財務諸表論の計算のような関係にはないということです。
個人的に見ると事業税を合格するには、法人税法の知識より条文を一言一句暗記する力の方がはるかに重要だと思います。私自身は事業税の勉強時間の目安とされる200時間に概ね達した状態で試験に臨みましたが結果は不合格、それもC判定でした。合格は難しいだろうと思ってはいたものの、予想以上の結果の悪さに私が感じたのが、この科目は本当に100点を取れるくらい理論暗記や計算の精度とスピードを高めなければ合格できないということでした。そして、そのためには少なくとも、500時間程度の勉強時間が必要なのではないでしょうか。
このように、すでに理解している論点について記述などの精度とスピードを高めるために勉強するということが私には耐えきれず、事業税の受験継続を断念しました。同時に、他のミニ税法にも多少なりとも同様の側面があるであろうこと。また、所得税法や相続税法の勉強を今後複数年かけてやり抜く気力が湧かなかったことから大学院へ進学し、税法科目の2科目免除の認定を受けることを真剣に検討するようになりました。
大学院進学を決めた経緯と入学までの流れ
大学院進学というルートは、事業税の合格発表直前までまったく検討していませんでした。というより、ほとんど知りもしていなかったのです。しかし、たまたま税理士試験の勉強している会社の同僚から、「院免もありだよね」という話を聞いて急に意識するように。そして不合格の通知が届いた翌日には、院免を狙える大学院に入学するための受験予備校の無料セミナーに申し込みを行いました。
その予備校のセミナーは、基本的に次期年度の入学試験受験を検討する人たちに向けたものです。しかし、私は1~2カ月後に行われる当年度の入学試験を受験すべく、研究計画書を書くにあたり有用な材料を探す目的で参加。セミナーでは講師の先生(大学教授の方だったと思います)から計画書のテーマとして有用なトピックが複数示され、その中に「組織再編税制」に関するものがありました。仕事で組織再編に関するコンサルティングに携わることのあった私は、迷わずこのテーマを選択。1カ月程度で研究計画書を書き上げ、結果的に職場から近い私大の大学院へ無事入学することができたのです。
大学院で学んだこと
大学院で知り合った同級生は30代が中心。約半数が税理士事務所勤務、残り半数が私のようなコンサル系の会社を含む事業会社の方でした。税理士試験の合格科目は皆バラバラでしたが(中には科目合格なしという方も)、税法の合格科目は消費税法という方が多かったと記憶しています。
大学院の授業は、納税者と課税庁との間で争いとなった事例の研究を数多く実施。皆で意見交換するという形式のものが多く、このような勉強がしたかった私にとって、大学院の税法の授業はとても楽しいものでした。他に多かったのが国際課税に関する勉強をする時間など。法人税法の勉強で断片的に把握していた法規定の趣旨や、より深い論点について知ることができたのは大きな財産となりました。
自身の研究テーマであった組織再編税制については、担当教授の指導の下、無事に論文を書き上げることができました。先輩や同級生の中には論文を書き上げきれず留年する方もいましたが、私自身は仕事がそこまで激務ではなかったこと、そしてもともと一定の知見と興味のあるテーマを選択していたことから、比較的スムーズに執筆できたのだと思います。
なお、卒業後に国税庁へ論文を提出してから免除決定通知書が届くまで、私の場合は10カ月以上を要しました。論文提出のタイミングなどにより期間は異なるようですが、何とももどかしい時間が長く続いたため、大学院の同級生の中には国税庁に照会の電話をしたという方も。院免を目指す人にとって、この辺りはもう少し改善(短縮)してもらえると嬉しいところです。
このように、大学院では試験科目とは異なる知識や経験を得ることができます。前述の大学院受験予備校のセミナーでは、大学院進学によって法人税法や所得税法という難易度の高い必須の税法科目を受験しなくて済むというメリットが強調されていました。しかし、私の考えはむしろ逆です。すなわち法人税法や所得税法、相続税法といった実務で大いに役立つ科目は、試験勉強を通じてしっかりと知識を身につける。言い方は悪いかもしれませんが、試験を通過するため“しぶしぶ”ミニ税法を選択・勉強するのであれば、大学院に進んだ方が有意義とも言えるのではないでしょうか。
もちろん大学院進学はお金もかかります。あくまで私自身の経験から考える一つの意見ですが、事業税で述べたような「精度とスピードを高めることが中心の勉強」に苦手意識を覚える方は、院免を選択肢に入れてみてもよいかもしれません。
まとめ
働きながらの税理士試験5科目に合格することは、決して甘くありません。予備校の勉強時間は目安として参考程度に、税法科目の選択は自身の適正を踏まえて決定すること。特にミニ税法は、安易に飛びつくと危険かもしれません。税理士試験の合格を目指すなら、院免も一つの選択肢です。大学院では、試験では学べない知識も得られるでしょう。どのような選択肢も、最初から除外する必要はありません。
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