相続税法
税理士試験の科目の中でも、より実務に活かせるのが相続税法です。相続に関する疑問やトラブルは多く、深く理解しておくことで、税理士になった後も役立つでしょう。本記事では相続税法がどのような内容なのか、合格のための勉強法などと合わせて詳しく解説しています。
個人が財産を相続した場合に相続税が課されることがあります。相続税の納税義務者や課税財産の範囲、税額の計算の方法などのルールを定めた法律が「相続税法」です。税理士試験のなかでも実務での必要性が高い科目です。
相続税法は、他の税法とは異なり、「相続税」という1つの科目の中に相続税と贈与税、2つの税目があります。さらに試験のなかで民法の知識も問われるので、相続税法といいながら贈与税や民法についても学ぶことになります。また、他の科目のように会計の知識を必要としないのも特徴です。
相続税法の中で重点的に勉強したいのは「財産評価」です。たとえば、相続税を計算するにあたって、市場価格がないモノについても価値をつけなくてはなりません。その基準や方法が、相続税法によって定められています。財産評価は相続業務の中でも重要性が高いです。試験でも財産評価はかなりの確率で出題されるので相続税法を勉強するにあたっては、財産評価を必ず押さえておきましょう。
相続税法の問題は、理論問題と計算問題が出題されます。
理論問題では、相続税法などの各種規定を説明させる問題や、事例形式の問題が出題されています。規定ごとの個別論点のほかに、複数の規定が関わる応用理論も出題されます。また、他の税法と同様に税制改正で改正された論点が出題される傾向にあります。
一方、計算問題では相続事例についての総合形式の問題が出題されます。財産評価や税額を正しく算出する知識が問われます。
計算問題についても前述のとおり大きな法改正があったり、特殊な事例が生まれたりしたときは要注意です。
相続税法の試験範囲は、以下のとおりです。
・相続税法に係る法令に関する事項のほか、租税特別措置法、国税通則法など当該科目に関連するほかの法令に定める関係事項を含む。
理論問題と計算問題が1問ずつ各50点、合計100点満点の試験です。
理論問題では、個別問題と総合問題が出題されます。
個別問題では、規定ごとの個別の知識が問われます。総合問題では、事例や具体的な状況を想定した応用力が試されます。解答にかかる時間も長くなります。
計算問題では家族構成や財産状況などの事例が与えられ、財産評価や相続税額を問われることが多いです。
相続税法は「合格ラインが60点」といわれています。ただし、実際には合格点が設定されているわけではありません。あくまで他の受験生との相対評価で合否が決まります。合格率は例年10~13%程度で「60点をとれば必ず合格できる」というわけでもありません。相対評価の試験ですので、自分では手ごたえがあっても、不合格というこもあります。
なお、近年では、平成30年度から3年連続で合格率が12%を下回りました。
合格率 | |
---|---|
平成28年度 | 12.5% |
平成29年度 | 12.1% |
平成30年度 | 11.8% |
令和元年度 | 11.7% |
令和2年度 | 10.6% |
試験の難易度に関して、問題は、税理士試験の中でもシンプルなものが多いです。基本的な知識で解ける問題も多く、対策を立てやすい科目のひとつです。ただ、広い出題範囲の中から出題意図にふさわしい回答を求められ、さらに相対評価の試験であるため他の受験生より精度の高い答案、正確な回答が必要です。
税理士試験の勉強をするなら独学ではなく、通信講座や予備校などを利用するのが良いでしょう。もちろん、独学はマイペースで勉強できるうえ、コストもかからない点はメリットでしょう。ただし、自分に厳しくできないタイプの人に独学はおすすめできません。独学だと、つい苦手分野を後回しにしてしまいがちです。その結果、試験勉強に偏りが生まれて本番で苦労してしまうかもしれません。
相続税法は範囲が広いので、独学だとどのような手順で勉強すればいいか分からなくなることもあるでしょう。通信講座や予備校なら、プロが試験勉強の計画を練ってくれます。模試などを通して、受験生の苦手分野も正しく指摘してくれるはずです。常に宿題を出されたり、周囲から刺激を受けたりするので勉強のモチベーションも保てるでしょう。
あくまで目安ではあるものの、相続税法では500時間は勉強時間が必要とされています。1日2~3時間勉強するとして、できれば試験の半年前を切ったところで勉強し始めたいところです。もちろん、「500時間勉強すれば合格できる」というわけではないので注意しましょう。相続税法は所得税法や法人税法に次いで条文が多いため、試験範囲を一通りするだけでも一苦労です。そのうえ、復習を重ねて試験範囲の理解度を高めていかなくてはなりません。勉強時間は多ければ多いほど有利です。
目標として、「財産評価から課税価格の計算までをできるようになる」レベルを設定しましょう。財産評価では評価するものによって評価のルールが違います。そのすべてを覚えておかないと、不安を残したまま試験に挑むことになってしまうでしょう。また、日々の反復で、計算スピードを上げていくことが大切になります。そうすれば、心に余裕をもって試験に挑めることでしょう。
理論については、概要をつかむことを重視しましょう。ひとつひとつの条文を掘り下げていくと、どうしても時間がかかってしまいます。まずは試験範囲全部に目を通し、おおまかな流れを頭に叩き込んでいきましょう。そのうえで、簡単な例題を解いていってください。個別の設問は試験の演習になるだけでなく、解説を通じて復習も行えます。
そして、少しずつまとまった量の問題も解くようにしていきます。実際の試験では、総合問題の配点がとても高くなります。複数の条文、あるいは計算問題が組み合わさった理論問題を解けるようにならないと、合格は遠のきかねません。なお、勉強には過去問を使うのが非常に効果的です。本番の問題形式を把握できるため、効率的な解き方を覚えられるでしょう。そのほか、法改正や特殊な事例は必ずチェックしましょう。こうした出来事はすぐに試験に反映されやすいです。
勉強のときには、「とりあえず問題を解いてみる」ことを考えます。理論を完璧にしてから問題を解くのも一つの勉強方法ですが、相続税法は試験範囲が広いので、理論だけに集中しているとかなりの時間が過ぎていきます。そこから問題を解き始めても、試験まで日が足りなくなってしまいかねません。おおよその理論を覚えたところで、問題演習で理解を深めていきましょう。問題をたくさんこなせば、苦手分野もはっきり見極められます。
本試験では、「個別問題で点を稼ぐ」ことを意識しましょう。なぜなら、個別問題は奇抜な内容になりにくいからです。基礎的な内容で十分に対応できる問題もあります。
相続税法は遺産相続だけでなく、死亡保険金などにも関係します。相続税の仕組みは複雑ですし、一般の人は、普段相続にかかわることが少ないため理解している人は少ないでしょう。また、法人や個人の申告に比べ、相続の関する仕事は数が少なく、相続業務を苦手とする税理士も少なくありません。ですので相続税法を理解している税理士は、それだけ他の税理士と差別化でき、需要もあります。
さらに、相続税の基礎控除額が改正されたことで、課税される可能性のある人が増えたことで以前よりも相続税への関心が高まっています。相続税に強いことをアピールしている税理士も少なくありません。今後も相続税を理解している税理士は注目されていくでしょう。
所得税法や法人税法の次に試験範囲が広い相続税法は、勉強することが大変な科目です。しかし、相続税の課税の対象者が広がったことで、注目されるようになりました。また、相続は当事者間でトラブルが生じやすく、その点でも相談できる専門家としての需要があります。勉強に際しては、基礎知識をしっかり押さえ、繰り返し過去問を解いて、試験の形式に慣れておくことが合格の鍵を握ります。
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