税理士試験必須科目

簿記論

簿記論とは?

簿記論とは

簿記論は、企業などの経営状態を明らかにする目的で事業活動を帳簿に記録する、簿記のルールをまとめたものと理解すればよいでしょう。私たちが使っている「簿記」という言葉は、「帳簿記録」を省略したものです。

簿記には財務諸表を作成するルールが含まれています。財務諸表は、経営状態を明らかにするための資料として、誰が見ても理解できるよう統一したルールで作成されなければなりません。そのルールと計算方法が示されている簿記論は、財務諸表を作成するための現実的なテクニックとルールをまとめた科目です。また、財務諸表論や税法科目を理解するために必要な基礎知識でもあります。

簿記と簿記論の違い

簿記検定の「簿記」と税理士試験の「簿記論」は共通する部分はかなり多く、たとえば簿記1級と簿記論では出題範囲の9割程度が重なっています。

簿記論は例年すべて計算問題になっており、簿記に関する知識と同時に正確かつスピーディな計算能力が求められます。また、試験時間に対して問題が多いことや、“解けない問題”が含まれている場合もあるなど、難問を見極めて捨てていくテクニックも必要になります。

それに対して、簿記1級は出題傾向が一定でおおむね過去問の流れをくんでおり、“解けない問題”のような落とし穴はほぼありません。ただし、工業簿記については、簿記論よりも高度な問題が出題される傾向があります。

出題範囲

簿記1級 商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算
簿記論 複式簿記の原理、その記帳・計算および帳簿組織、商業簿記のほか工業簿記を含む。ただし、原価計算を除く。

簿記論の試験概要

試験科目の内容とポイント

簿記論とは、企業活動により生じる取引を帳簿に記録する方法(簿記)を学ぶ学問です。簿記の目的は、取引を帳簿に記録し、数値化することにより、企業の活動や状態を明らかにすることにあります。内容としては、基本的な記帳のルールから始まり、帳簿体系や複雑な取引に関する記録方法など、非常に多岐にわたっています。

簿記論は会計の基本となる事柄であるため、税理士試験においては会計学科目として、必須科目となっています。税理士試験に挑戦する多くの人は、この簿記論から受験勉強を始めていくことが多く、受験者数も非常に多くなっています。

出題範囲の例および内容

令和3年度税理士試験における出題範囲は以下のとおりです。

複式簿記の原理、その記帳・計算および帳簿組織、商業簿記のほか工業簿記を含む。ただし、原価計算を除く。

出題内容は、例年ほぼすべてが計算問題となっています。出題形式は大問が3問出題され、試験時間は2時間です。内容としては、非常に難易度の高い問題もある半面、基本的な問題も多く出題されます。ただし、問題のボリュームが多く、本番のプレッシャーのなか、時間内にすべてを終わらせるのは非常に困難です。よって、最初に問題全体の概要をつかみ、確実に得点できる問題をこなしていくことが非常に重要です。

出題形式

簿記論は、試験時間2時間、合計100点(第1問、第2問/25点 第3問/50点)の試験です。大問3題は、すべて計算問題です。各大問に注意事項や資料が付記され、それらの条件に基づいて複数の問題を解いていく形式です。
計算問題の形式をとっていますが、具体的な事例に対して法律の規定などをあてはめて考える応用力が求められます。また、時間内に処理しきれないほどの問題量は、計算能力と事務処理能力をみているともいわれています。

簿記論の難易度・合格率

簿記論の合格率

令和元年、令和2年と連続して合格率が上昇しています。平成21年以降では最高18.8%、最低8.9%でしたが、それ以外は12%~14%台で推移していました。

必須科目の1つである簿記論は、税理士試験の中でも受験者数の多い科目です。2つの必須科目、特に簿記検定の延長線上にある簿記論を税理士試験の入門編と考え、トライアル的な気持ちで受験する人もいます。残念ながら、簿記論、財務諸表論で苦戦して税理士を断念してしまう人も少なくないため、受験者がほかの科目より多くなっています。税理士試験の初心者である受験者が多いことが合格率にも影響していると考えられます

合格率
平成28年度 12.6%
平成29年度 14.2%
平成30年度 14.8%
令和元年度 17.4%
令和2年度 22.6%

簿記論の難易度

税理士試験には合格基準点があります。合格基準点を超えることが科目合格の前提ですが、60点とれば合格できるということではありません。税理士試験は、実質的には受験者全体の成績により、上位から合格者が決まる相対評価といわれています。合格率とはすなわち、このパーセンテージに含まれる上位得点者が合格できるということです。つまり、平均的な合格率である上位12%~14%に入らなければ、合格できない可能性が高いのです。

ただし、簿記論は、税理士試験を受験する人が最初に受験する科目です。そのため、選択必須科目の中でも人気の高い法人税法や所得税法と比較すると、難易度は高くないと考えることができます。

税理士試験の中で相対的な難易度が高くないとしても、一般的にみれば、非常に難易度が高い試験です。簿記論の知識を深く理解したうえで、さらにその知識を活かせる能力を備えていないと合格が難しくなっています。

簿記論と簿記1級、どちらが難しい?

簿記論と簿記1級は出題範囲が重複することもあり、しばしば比較される資格です。専門学校や資格関連のWebサイトなどでの難易度判定でも同等とされていることが多いようです。どちらも高難度の資格としてあげられています。

合格率で比較すると、簿記1級(第156回、令和2年11月)は13.5%、簿記論(第70回、令和2年度)は22.6%と、簿記1級の方が低い結果になっています。令和2年だけでなく、両者を比較すると、合格率は簿記1級の方がおおむね低い傾向にあります。

しかし、合格率だけで簿記1級のほうが難しいと判断するのは早計です。日商簿記には受験資格がなく、受験者の年齢や経歴はまちまちです。簿記論を含む税理士試験は、受験者が一定水準の知識をもつ人に限られるよう、受験資格が設けられています。この受験資格の違いが合格率に反映されているとも考えられます。

一方で、税理士試験の受験資格には、簿記1級の取得が含まれています。その点からも、簿記論が簿記1級よりも高度になると考えるのが自然です。

簿記1級に合格したから、簿記論も確実という断定はできませんが、出題範囲については簿記論と簿記1級は、ほぼ同等の知識で対応できるといわれています。ただし、出題傾向や形式、試験のテクニックの面で簿記論の難易度が高くなっていると考えられます。

簿記論の勉強時間・勉強方法

勉強時間

簿記論合格に必要な勉強時間については、300~400時間、500~1000時間など、かなりいろいろな意見があります。ここまでバラツキが大きい理由のひとつには、おそらく、受験者が保有する知識のギャップがあると考えられます。

たとえば、簿記1級合格者であれば、簿記論の出題範囲の知識の大半が身についています。そのうえで、簿記論の試験対策を中心に勉強していけば、300~400時間程度で合格レベルに届く可能性があります。しかし、簿記初心者は、経理業務の基礎知識に相当する簿記2級レベルの素養を身につけるだけでも、それなりに時間がかかります。そのようなケースでは、1000時間以上かかることもありえます。

勉強方法

簿記論を最初に受験する、税理士試験に関する経験値が浅い受験者は、自分にあった勉強方法を確立することが最初の課題といってよいでしょう。効率よく勉強をするためには、自分にあった勉強方法を見つけて、生活の中で勉強するリズムをつくっていくことが大切です。これは、少しでも早いほうがよいでしょう。

簿記論に合格するには出題範囲の知識を深めることと、試験時間中に、膨大な問題量を効率よく解いていく試験テクニック、ケアレスミスをおかさない注意力を身につけていく必要があります。試験勉強の時間で、知識を身につける学習と問題を解く演習をバランスよく行う必要があります。

効率よく勉強するため、合格者の多くが専門学校や通信講座などを活用しています。簿記論はほかの科目と比べると、独学でも合格できる可能性がある科目といわれていますが、やはり独学ではハードルが高くなります。独学でチャレンジする場合は、試験に関する情報や出題傾向など情報不足にならないよう、勉強以外の点にも気を配らなければなりません。

簿記論と財務諸表論との関連性

財務諸表論は、財務諸表や連結財務諸表を適法に作成するための考え方やルールに関する理解を求める内容で、簿記論とは学習論点に共通する部分があります。簿記論と財務諸表論を同時期に勉強することで、理解が進みやすくなります。2科目とも必須科目ということもあり、簿記論と財務諸表論を同時に受験する人が多いです。

総合計算問題については、出題形式にも類似があります。相違点としては、簿記論は取引ごとの処理や仕訳の知識に出題の主眼が置かれ、かなり難解な取引が含まれています。それに対して、財務諸表論では貸借対照表や損益計算書の表示科目とその残高を正しく表記できるかという点をみるため、取引自体に難解なものは少ない傾向があります。

簿記論は実務にどう役立つ?

実務との関連性について

簿記の内容とは、企業の経済活動から生じる取引をどのように帳簿に記帳するかという会計処理を中心としたものです。税理士は、その資格が表すとおり、税務に関する専門家です。では、なぜ税理士の実務に会計処理は関わってくるのでしょうか。この疑問に対する答えとしては、税理士の実務と会計業務は密接な関係があるといえます。

税理士は税務に関する専門家としてプロフェッショナルサービスを提供することを生業としますが、実務においては税務のみならず、税務を中心とした会計実務に幅広く携わることになります。会計の分野には、外部の利害関係者に向けた財務会計、税金計算のための税務会計という分類がありますが、税理士の実務ではこのどちらにも関係することになります。これは、法人税等の税金計算は、各企業の財務会計上の利益を出発点としているためです。

税理士の中心的なサービスの1つに法人や個人事業主の確定申告書の作成がありますが、こういった業務の場合、一般的には確定申告書のみではなく会社や個人の決算業務を含めて請け負います。このように、税理士業務と企業会計は密接にかかわっているため、税理士にとって、簿記は必要不可欠な知識となります。

そのため簿記論の内容は、会計事務所等では国内税務のような基本的な職種から国際税務、組織再編・再生、IPOなどのコンサルティングサービスといった職種まで、幅広く役立つ知識となります。

税理士業務以外の一般事業会社等の業務では、たとえば一般事業会社における経理、財務、税務部門や財務・会計・税務コンサルタントのような職種・業種に役立ちます。簿記論の内容は会計の基本となるものなので、簿記論の学習内容を活かし、将来的にこれらのフィールドで活躍することができます。

執筆・編集

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ikesaka(ペンネーム)

税理士

税理士。大学時代に簿記と出会い、税理士を志す。大学卒業後、税理士事務所に入社し顧問先の税務顧問や法人設立、税務調査などに従事。ベンチャー系事務所や中堅規模の事務所を経験し、税理士資格取得後、事業会社に転職しバックオフィス全般に携わる。税理士としても独立し、特にスモールビジネスや若手、女性の起業家の支援に注力している。

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