税理士としての資格・経験を活かして公務員に転職する方法

税理士としての資格・経験を活かして公務員に転職する方法

税理士の働き方として、一般的に考えられるのは「税理士法人に勤める」「一般企業に勤める」「自身で税理士事務所を立ち上げる」の3つです。しかし実は、税理士の知識と経験を活かして、公務員になることもできるのです。
公務員として働くことで、安定した収入と充実した福利厚生、社会的信用の高さを得られることは確かであり、そこに魅力を感じる人は多いのではないでしょうか。
ここでは、税理士としての知識・経験を活かし、公務員に転職する方法についてご紹介します。

マイナビ税理士編集部

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税理士から公務員になる3つの道

公務員と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、「国家公務員総合職」や「地方上級公務員」などでしょう。しかしこれらは、公務員試験の合格者から採用されるものであり、税理士としての知識や経験があっても評価されません。
面接に進めば評価される場合もないとはいえませんが、配属先によっては税理士としての知識や経験をまったく活かす機会がないことも考えられます。

その一方で、公務員の職種の中には「税理士として経験を積んできたからこそ就くことができる」ものも存在します。
それが、警視庁や各地の警察本部が採用する「財務捜査官」や、地方裁判所が採用する「執行官」「裁判所調査官」などです。

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都道府県警察の財務捜査官とは?

財務捜査官は特別捜査官の一種であり、財務分野を専門とする都道府県警察の捜査官です。その専門知識と経験を活かし、財務分析や企業の不透明な資金フローの解明、粉飾決算の調査などを行い、経済犯罪・企業犯罪に関する捜査を行うのが財務捜査官のおもな仕事です。
基本的に少数精鋭のため、常時募集があるわけではなく、各都道府県警察で欠員が出たときに採用選考が行われます。

財務捜査官の応募要件

財務捜査官の応募要件は都道府県警察ごとに異なりますが、税務や経理の知識・経験が必要とされる点は共通しています。2017年度の警視庁募集では、次のような要件で募集が行われました。


<財務捜査官 募集要項>


次の(1)(2)いずれかに該当する者
(1)税理士または会計士補の資格を有し、かつ、民間等における5年以上の有用な職歴を有する
(2)税理士法第5条第1項第1号イからホまでに定める事務(イ:税務官公署における事務またはその他の官公署における国税・地方税に関する事務、ロ:行政機関における政令で定める会計検査、金融検査または会社その他の団体の経理に関する行政事務、ハ:銀行、信託会社、保険会社などに関する事務、ニ:法人または事業を営む個人の会計に関する事務で政令で定める貸付その他資金の運用に関する事務、ホ:法人または事業を営む個人の会計に関する事務で政令で定めるもの)またはこれに相当する業務に民間等で5年以上の有用な職歴を有する

財務捜査官の職務

財務捜査官に求められる知識や職務も都道府県警察ごとに異なります。
警視庁では、会計帳簿・伝票類、外国為替、手形、小切手に関する専門知識が求められます。その知識を活かし、金融犯罪・企業犯罪捜査での財務分析、地下銀行・旅券不正取得等の国際組織犯罪捜査での資金ルートの解明、暴力団関連の企業犯罪やフロント企業での財務分析・資金ルートの解明等に携わることが職務とされています。

財務捜査官の求人状況

財務捜査官は、2018年8月に大阪府警で20年ぶりに募集されたことがメディアで話題になるほど求人数が少なく、たとえ求人が出ても、採用人数は1~2人とわずかです。
毎年募集している都道府県警察はゼロに等しく、多くても数年に一度の募集なので、財務捜査官を目指す場合は求人情報を見逃さないことが何より大切です。募集が行われる際は、各都道府県警察から直接発表されます。

財務捜査官の収入

税理士として5年以上の実務経験がある場合、財務捜査官は「警部補」として採用されます。この場合の年収は、450万~900万円程度が目安です。
税理士として10年以上の実務経験がある場合、「警部」として採用する都道府県警察もあり、その場合の年収は580万~940万円程度となります。

採用試験合格までの道のり

財務捜査官の採用試験は、1次試験と2次試験の2部構成となります。内容は都道府県警察によって異なりますが、1次は簿記論や財務諸表に関する知識といった専門知識と一般教養を問う筆記試験、2次では個別面接による人物考査と体格検査、身体検査が行われることが多いでしょう。
なお、体格検査は加点の対象とはならず、基準をクリアしているかを見るものとなります。税理士資格と一定以上の実務経験があれば、1次試験は免除とする都道府県警察もあります。

財務捜査官として就任した後は、刑事課などに配属され、おもに贈収賄や詐欺、背任、横領、企業犯罪などの事件を捜査することになります。

地方裁判所の執行官とは?

執行官は、各地方裁判所に所属する裁判所職員であり、裁判の執行などの事務を行う役職です。
職務としては、例えば「被告は原告に◯◯の建物を明け渡せ」と判決が出ているにもかかわらず、明け渡さない人がいる場合、執行官は該当の建物から明渡し義務を負う人を排除した上で、権利者に建物を引き渡す事務を行うといったことが挙げられます。
また、「被告は原告に△△円を支払え」という判決が出ているにもかかわらず、被告(債務者)が支払おうとしない場合、執行官は被告の財産を差し押さえて売却し、その代金を債権者への返済にあてるなどの手続きを行うこともあります。

執行官の求人要件

執行官になるには、各地域の高等裁判所で実施される「執行官採用選考試験」に合格する必要があります。
専門性が高い仕事だけに、受験資格のハードルは高く「法律に関する実務」に就いている期間が10年以上の人に限られます。
税理士としての経験はこの条件に合致するため、10年以上の実務経験があれば応募可能です。

執行官の求人状況

執行官の採用選考試験は毎年行われるとは限らず、募集が行われる場合は、裁判所のウェブサイトに情報が掲示されます。受験申込み期間は7月中旬~8月上旬頃であり、採用は翌年4月1日付が原則です。

執行官の収入

執行官は裁判所職員ですが、その給与は国からは支払われず、執行処分による独立採算制がとられています。つまり、事件の当事者が支払った手数料の中から支払われるということです。
そのため、執行官の収入は、手掛けた案件数によりばらつきがあり、案件を手掛ければ手掛けるほど収入が増えるしくみとなっています。

不景気なときでも、倒産に伴う不動産の引渡しなどの案件はあるため、執行官の収入は比較的安定しています。収入に関する統計資料はありませんが、年収1,000万円を超えることも珍しくないといわれています。
一方、親権争いや裁判結果に不満を持つ債務者などにも関わるため、業務の執行を妨害されたり倒産した会社経営者の自殺現場に出くわしたりするリスクもあります。

試験合格までの道のり

執行官の採用選考試験は、1次と2次の2段階構成です。1次試験は法律分野からの択一式試験と論文試験、2次は人物と能力を見る個別面接となっています。

執行官として就任した後は、身分は裁判所職員ながら、確定申告も自分で行うなど個人事業主と変わらない立場で仕事を行うことになります。業務内容は、動産・不動産執行や差し押さえ、親権争いでの子供の引渡し催促、競売物件の開札、担保不動産の収益執行など多岐にわたります。

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地方裁判所の裁判所調査官とは?

裁判所調査官は、事件の審理や裁判で判断を下すために必要な調査を行う役職です。裁判官の審理を補佐する大事な役職であり、地方裁判所では、専門性の高い知的財産案件や税務訴訟に限って裁判所調査官が置かれます。
高等裁判所・地方裁判所では、特許庁や国税庁などからの出向者が裁判所調査官として従事することがほとんどですが、一般公募される場合もあります。

裁判所調査官の求人要件

裁判所調査官は、租税法令や関連通達の改廃の有無、その経緯の調査のほか、問題となっている事案に対する過去の判例や関連通達、立法資料、文献などの収集・調査、税額の計算などがおもな職務となります。
裁判所から日本税理士会連合会などを通じて、すでに税理士として活動している人たちに向けて、候補者の募集が行われることが一般的です。

裁判所調査官の求人状況

裁判所調査官は完全に不定期の求人であり、裁判所のウェブサイトや日本税理士会連合会などを通じて募集が行われます。多くの場合、2年前後の任期が決まっている期間限定の仕事です。

裁判所調査官の収入

裁判所調査官は公務員扱いとなるため、俸給表に従って給与が支給されます。地域手当や通勤手当もつき、退職時には退職手当も支給されます。

試験合格までの道のり

裁判所調査官は不定期の求人のため、試験期間は定められていません。
試験は書類選考と面接試験の2段階構成になっています。

公務員になるメリット・デメリット

公務員になるメリットは、安定した収入だけではありません。公務員は景気に左右されず雇用が安定しており、自主的に辞めない限りは確実に定年まで働くことができます。また、有給休暇や育児休暇、介護休暇などが取得しやすく、年金や保険などの福利厚生も充実しています。
また、国や地方公共団体は信用が高いため、社会的信用を得やすく、住宅ローンなどもほかの職業に比べれば組みやすいといえます。

その一方で、自分の努力が給与に反映されるわけではないことや、副業や政治活動に制限を受けることなどは、デメリットとして挙げられるでしょう。
公務員になると生活は安定しますが、税理士事務所を開いて事業を育てることなどはできなくなります。公務員として働くことが、自身の性格やキャリアプランに合っているか、よく検討することが大切です。

税理士の知識・経験を公務員として活かす道もある

税理士にできることは、企業のコンサルティングや税務部門での支援だけにとどまりません。企業の脱税や経済犯罪を見抜き、調査を進めるにはやはり専門家の力が必要ですし、そのような行政機関の一員として働くことも、税理士だからこそできる働き方のひとつです。
税理士としてのスキルや能力を直接活かせる公務員は、求人件数自体は少ないものの、やりがいのある仕事ばかりなので、興味がある方はぜひ挑戦してみてください。


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