政府、退職金課税の軽減措置を見直しか...改正案の内容と影響3つを考察
「退職金課税の軽減措置がなくなるかもしれない」__2023年4月半ば、一部のメディアからこのような報道が流れました。現在、政府が見直しを議論していると言われています。退職金課税のどの部分を見直すのでしょうか。また、なくなったらどれくらい税負担が増えるのでしょうか。今回は、退職金課税のしくみを確認しつつ、軽減措置がなくなったときの影響について考えます。
退職金課税のしくみを再確認
退職金課税の今後を考える前に、現行の制度を確認しましょう。
退職所得課税の考え方
会社を定年退職したときなどに受け取る退職金は、課税上かなり優遇されています。なぜでしょうか。退職金は、勤務期間中に受け取る給与や賞与とは違った性格を持つものだからです。
退職金は、会社に長い間勤務したことへの功労です。同時に、長期間における労務の対価の一部が積み重なったものでもあります。そして受け取る側にしてみれば、退職後の生活の糧です。これまでと同様に働けない中での生活保障となります。一括で受け取る金額は大きくても、老後生活を思えば担税力があるとは言えません。
そのため、退職所得への課税は他の所得と違って、税負担がかなり軽減されているのです。
退職所得の3つの軽減措置
退職所得の税負担はどう軽減されているのでしょうか。具体的に見てみましょう。次の3つがポイントです。
退職所得控除
1つ目は退職所得を計算する上での控除額です。退職所得は、次のように計算します。
(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除)×1/2=退職所得
この計算式で注目したいのが退職所得控除です。退職所得控除額は、勤続年数に応じて増額します。次の通りです。
参照元:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
勤続年数が20年までだと基準金額が40万円です。20年を超えると、超えた部分の年数から70万円をベースに計算することになります。「長く働けばその分税金がラク」と言うわけです。
2分の1課税
2つ目は2分の1課税です。所得税では所得を10種類に分けた上で計算しますが、基本的な所得計算の考え方は「収入金額-必要経費」です。退職所得も同様の考え方で計算していますが、課税のベースとなる金額はこの半分となっています。
退職所得の担税力の低さだけでなく、長期にわたる労務の対価の累積であることを配慮して平準化を図った措置だと言えます。
分離課税
所得税は基本的に各種所得を合算した上で、累進税率を適用して計算します。一括で受け取る退職金は通常、高額です。この退職金を総合課税で課税してしまうと、税負担が重くなり、退職後の生活がままならなくなります。そこであえて他の所得と区分し、税率を適用することとしています。
なお、税率は次のようになっています。
退職所得になるもの
退職所得となるものは「退職により一時に受け取る給与」と「これらの性質を有する給与」を言います。名称は関係ありません。そのため、勤務先の退職時に受け取る退職手当や一時恩給だけでなく、小規模企業共済や個人型確定拠出年金などの契約に基づき、一時金として受け取るものも含めます。
退職所得課税の手続き
念のため、退職所得課税の手続きも見てみましょう。退職所得は通常、本人の退職時に勤務先が退職所得から所得税と住民税を源泉徴収し、納付して完結します。ただし、退職前に本人から「退職所得の受給に関する申告書」の提出が必要です。
参照元:退職所得の受給に関する申告書(2022年4月1日以降用)|国税庁
この書類を提出すれば、先ほどの税率表にもとづいて所得税を、そして10%の税率で住民税を勤務先が源泉徴収して完了です。しかし、書類の提出がなければ20.42%の税率での源泉徴収されることになります。
政府「退職金課税の軽減措置の見直し」の内容
気になるのが退職金課税の見直しの内容です。メディアでは、次のような内容が報じられています。
見直しが検討されている軽減措置とは
見直しが検討されているのは、勤続20年超の人向けの軽減措置です。先ほど見た通り、現行の退職所得は次のように計算します。
勤続年数が20年を超えると控除額が1年あたり30万円増えます。政府は、この20年を超えた部分の控除額の増額をなくし、勤続年数に関係なく一律40万円で計算するよう制度変更を検討している模様です。
見直しの理由
この退職金課税の見直しの背景には、労働市場の変化があると言われています。
一つの会社に定年まで長く勤めるのは昭和の頃の話です。今は、一つの会社で長期間働く人は少なく、むしろ転職するのが一般的となりました。しかし「20年を超えて長く働いた方が退職金の税負担が少なくて済む」というしくみのせいで、自由な働き方をしにくく感じる人がいるかもしれません。成長分野があっても、そこに必要な労働力が流れないおそれもあります。
そこで労働市場の改革の一つとして、勤続年数による優遇措置をなくそうという案が、政府内の議論で浮上したのです。
退職金課税の軽減措置がなくなったときの影響
最後に、退職所得控除の軽減措置がなくなったときの影響を考えてみましょう。
退職所得にかかる所得税・住民税が増える
控除が減れば退職所得に課される所得税や住民税は増えます。
「勤続38年、退職金2000万円」の例で考えてみましょう。勤続年数による優遇措置があるかないかで、次のように変わります。
現行制度なら退職所得にかかる所得税・住民税は0円です。しかし、20年超の優遇措置がなくなれば、約38万円の税負担が生じることとなります。
合計所得金額の増加で他の優遇措置に影響
優遇措置がなくなって退職所得控除が減るということは、退職所得が増えるということです。これは、合計所得金額や総所得金額等の増加につながります。
特に注目したいのが合計所得金額です。合計所得金額は、次の所得の合計金額となります。
合計所得金額は、所得税・住民税の控除だけでなく、贈与税の非課税措置にも影響します。本人の合計所得金額が影響する制度は、次の通りです。
・配偶者控除・配偶者特別控除
・ひとり親控除
・寡婦控除
・勤労学生控除
・基礎控除
・住宅借入金等特別控除
・住宅取得等資金の贈与税の非課税措置
・教育資金の贈与税の非課税措置
・結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置
退職金を受け取るのは主に高齢世代なので、贈与税の非課税措置への影響は少なさそうです。しかし退職所得が増えた結果、配偶者控除が受けられなくなったり、基礎控除が減ったりすることで、別途確定申告をして納税せざるを得なくなる人は出てくるかもしれません。
なお、総所得金額等は、ふるさと納税などの寄附の上限額や医療費控除の控除額計算、雑損控除の控除額に影響します。優遇措置がなくなったら、退職金の有無も確認が必要です。
iDeCo・小規模企業共済の一括受取にも影響
iDeCoや小規模企業共済の一括受取は、退職所得に該当します。優遇措置がなくなれば、この一括受取にかかる税額も増えることになります。
今後の注意点
退職金課税の見直しが行われるとしたら、早くて2024年度税制改正、施行されるとしたら、2025年分の所得税からではないでしょうか。今年12月の税制改正大綱を見るまでは何とも言えませんが、実際に税制に反映されたら、関与先の個人の退職金の有無や金額などをこまめに確認していく必要があります。
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