インボイス制度は2022年、免税事業者を中心にメディアやSNSで注目されました。この制度は、免税事業者にとって「消費税を納めなければ取引を失うおそれのある」制度です。納税負担の増加で資金繰りが苦しくなることが心配されました。結果、声優業界やアニメーション業界など一部の業界団体から、強く反対の声が上がりました。

これを受け、与党税制調査会も慎重になったのでしょう。2023年度税制改正大綱が発表される間際の11月になり「インボイス制度が緩和されるらしい」というニュースが流れるようになりました。そして2022年12月16日に発表された2023年度税制改正大綱で、実際にインボイス制度は大きく緩和されました。

もっとも大きな緩和措置は「2割特例」の導入です。消費税の納税に抵抗を覚える免税事業者がインボイス制度に対応するための経過措置として設けられました。

2割特例とは、インボイス制度の開始に伴い、免税事業者から新たに課税事業者になる事業者のための軽減措置です。本来、課税事業者になると、次のいずれかで消費税を計算し、納めます。

・本則課税…課税・不課税・非課税・輸出免税に分けて細かく納める消費税を計算する方法
・簡易課税…「売上にかかる消費税－売上にかかる消費税×みなし仕入率」で納税額を計算する方法

簡易課税を使えるのは、基準期間の課税売上高が5000万円以下の課税事業者だけです。消費税の計算の煩雑さと納税負担の大きさから簡易課税で納税する事業者は少なくありません。

とはいえ、それでも売上の少ない事業主には痛手です。特にライターやプログラマーなど、仕入れのないフリーランスにとっては重い負担です。彼らはサービス業に該当するため、みなし仕入率が50％となります。売上が110万円あったら、5万円の消費税を納めなくてはなりません。

この負担を緩和するのが2割特例です。この制度なら、売上分の消費税の2割だけを納めれば済みます。
しかも簡易課税制度と違い、事前届出は不要です。申告書に「2割特例の適用あり」と書けば済みます。

参照：適格請求書等保存方式の円滑な導入等に係る関係府省庁会議の開催について｜出典元　内閣府

対象は「インボイス制度の開始に伴い、新たに課税事業者になる小規模事業者」です。小規模事業者とは、基準期間や特例期間の課税売上高が1000万円以下で免税事業者であった事業主をいいます。インボイス制度と関係なく課税事業者になった事業主は含まれません。また、課税期間が1年未満の事業主も対象外です。

簡易課税と比較すると、卸売業以外は2割特例を選んだ方が得だと言えます。というのも、2割特例が適用されている間は、「本則課税か2割特例か」「簡易課税か2割特例か」と、自由に選べるからです。2年間の継続適用の縛りもありません。また2割特例は、インボイス形式の領収書等の保管がいりません。

2割特例は期間限定です。2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間に限られます。

2つ目は、少額の仕入に関する緩和措置です。インボイス制度は本来、すべての仕入についてインボイス（適格請求書）の保管を求めます。もしインボイスの保管がなければ、帳簿等に記載があっても仕入分の消費税を控除できません。

しかし、今回の改正で支払対価の額（税込価額）が1万円未満の少額仕入については、インボイスがなくても帳簿等に記載すれば仕入税額控除ができることとなりました。ただし、対象者は次の事業主に限られます。

・基準期間の課税売上高が1億円以下の課税事業者
・特定期間の課税売上高が5000万円以下の課税事業者

なお、こちらも期限つきです。2023年10月1日から2029年9月30日までの課税仕入れのみとなります。

インボイス制度では本来、すべての取引にインボイスが必要です。値引きや返品、割り戻しといった「売上にかかる対価の返還等」にも求められます。これは事業主にとって重い負担でした。

税制改正でこのルールが変わりました。税込価額1万円以下の売上にかかる対価の返還等の消費税については、返還インボイスがなくても帳簿の記載でよいとされたのです。こちらは恒久的な措置となります。また、すべての課税事業者が対象です。

参考：適格請求書等保存方式の円滑な導入等に係る関係府省庁会議の開催について｜出典元　内閣府

インボイスには登録番号が必要です。この登録番号の発行には時間がかかります。そのため、登録申請や取消の期限が約1カ月で細かく設定されていました。これがいずれも15日に短縮されました。

現在、電子取引については原則、電子取引データの保存以外は認められません。紙に印刷しても青色申告の帳簿等の保存要件を満たしていると認められないのです。このほか、「特定のキーワードで検索できるようにする」「事務処理規程を設けるべし」などの条件がありましたが、今回の改正で緩和されました。

電子取引データは「取引金額・取引年月日・取引先名」で検索できるようにすることが求められていましたが、今回の改正でなくてもよいとされました。ただし、対象は前々事業年度の売上高が5000万円以下の事業主だけです。また、紙印刷の証憑書類を取引年月日などで整理し、調査のときに提出できるようにしなくてはなりません。

電子取引データ保存のさまざまな条件を守れないなら「とりあえず電子データ保存」でもよい、とされました。ただし調査の際、ダウンロードに応じたり、データを紙印刷して渡したりしなくてはなりません。

条件は緩和されましたが「電子取引データの保存は必須」は変わりません。「紙はあるけど電子取引データはない」は認められない点に注意が必要です。

インボイスも改正電子帳簿保存法も、今回の税制改正で大幅に緩和されましたが、取りやめになったわけではありません。インボイス制度の導入は必至です。電子取引データはいかなる形であれ、保存しなくてはなりません。会計事務所は、これまでと変わらず関与先を指導していく必要があります。