近年、医療を取り巻く環境は大きな変化を見せています。高齢化が急速に進み、医療のニーズが増加。医療費が国の財政を圧迫するようになり、厚生労働省は診療報酬を改定するなど、さまざまな施策を打ち出しています。

一方、医療機関は高まる医療ニーズに応えるため、M&Aや再編を実施し、事業規模拡大や経営基盤を強化する傾向にあります。

このような背景の中、病院やクリニックなど、医療業界に特化したサービスを提供する税理士法人が大きな注目を浴びています。

医療特化型の税理士法人でよく知られているのは、税理士法人川原経営や日本経営ウィル税理士法人の大手法人です。このほか、30～40名規模の医療特化型税理士法人も少なくありません。

では、広くさまざまな業種のクライアントにサービスを提供している税理士法人と、医療特化型の税理士法人を比較した際、サービスの内容に違いはあるのでしょうか。

実は、クライアントに提供しているサービスの内容は、ほとんど相違ありません。どちらも税務申告や税務顧問業務がサービスの中心であり、相続の際に資産税や相続税に関する相談に応じたり、事業再生やM&Aの支援を行ったりするなど、税務の専門性を発揮してクライアントである医療機関の経営を力強くサポートしています。

成長著しく、年々ニーズが高まっている「医療業界の税務」。実は、この業界に注目する税理士は決して多くありません。

マイナビ税理士のご登録者様も、最初から「医療特化型の税理士法人に転職したい」と志望する方はあまり多くなく、「医療という公共性の高い事業に貢献したい」という思いから転職を希望する税理士がいらっしゃる程度です。

では、なぜ医療特化型の税理士法人への転職を希望する方が少ないのでしょうか。その理由の一つに、「業界に特化して経験を積むことへの不安」が挙げられます。業界に特化すると、自ずと経験できる内容も狭まってしまう――このような不安を抱く方が多いのです。

ここで税理士の皆さんに知っていただきたいのは、「想像している以上に、医療特化型の税理士法人で経験できることが多い」という事実です。

そこで、次の項では、医療特化型の税理士法人に転職するメリットとデメリットを詳しくご紹介します。

医療特化型の税理士法人に転職するメリットとしては、クライアントが医療機関に特化しているため、「税務申告業務を定型化しやすく、覚えやすい」という点があります。そのため、医療機関の税務未経験でも入りやすく、馴染みやすいというメリットがあります。

また、「生前相続や事業承継の相談が多い」という特徴もあります。クリニックや病院の経営者は資産家が多く、そのご親族も同様のケースがほとんどです。クライアントの紹介で事業承継やM&Aの案件が発生することも少なくありません。

そのため、医療特化型の税理士法人には、コンサルティングの経験を広く積みたい方にとっても理想的な環境があるのです。

デメリットとして挙げられるのは、「医療」という特定の業界に特化して経験を積むことに関して。これをメリットと感じるか、デメリットと感じるかは人それぞれと言えます。

「幅広い業種の経験を積みたい」という希望を持っている人にとって、医療特化型の税理士法人への転職はデメリットに感じられるかもしれません。

逆に、「業界に特化して経験を積み、医療税務のスペシャリストになりたい」など、税理士としての強みや武器を満ちたいと思っている方にとっては、その限りではありません。

これは医療特化型の税理士法人への転職に限ったことではありませんが、転職を成功させたいのであれは、まずは「今後のキャリアビジョンを明確に抱く」ことが大切です。

「医療特化型の税理士法人なら、自分のキャリアビジョンを実現できる」と思ったのなら、業界を特化することは、デメリットどころかメリットになることでしょう。

冒頭でご説明したように、医療特化型税理士法人の最大手は税理士法人川原経営と日本経営ウィル税理士法人の2法人で、これに30～40名規模の法人が続きます。

優秀な税理士を求める医療特化型の税理士法人は多く、採用ニーズは高まっているものの、法人の数自体がそれほど多くないため、医療特化型の税理士法人への転職を考えているのなら日頃から求人情報をチェックすることをお勧めします。

求人情報をチェックする際には、その事務所のサービス内容を必ず確認しましょう。M&Aの支援などコンサルティングも含めて広くサービスを提供している法人もあれば、税務申告に特化した法人もあるからです。

また、大規模な総合病院がメインなのか、クリニック中心なのか、クライアントについてもチェックしておくとよいでしょう。

転職を検討している税理士や科目合格者の皆さんの中には、「医療特化型の税理士法人の場合、特別なスキルや知識が必要では」と心配される方が少なからずいらっしゃいます。

マイナビ税理士でも、「医療知識が必要でしょうか」というご質問をいただくことがあります。

実際はその逆です。医療業界に特化しているからといって、転職前に特別な準備をする必要はありません。もちろん、クライアントと向き合う上で医療知識が必要になることもありますが、それらの知識は転職後に身につけても十分に間に合います。

医療特化型の税理士法人が求職者に求めているのは税務の経験です。加えて、医療業界への興味・関心が求められますが、強い関心がなくても、「税務経験を医療系のクライアントのために活かしたい」と思っている方であれば、ほとんどの医療特化型の税理士法人は受け入れてくれることでしょう。

求められる資格や経験などは、他の税理士法人とほぼ同様であると考えて差し支えありません。そのため、一般事業会社の税務経験を積んできた方が、医療特化型の税理士法人に転職することも十分に可能です。

では、どのような方が、医療特化型の税理士法人に向いているのでしょうか。

医療特化型の税理士法人のクライアントである医療機関は、「患者さんの病気を診断・治療する」という社会貢献性の高い使命を背負っています。一般事業会社と違って、利益の追求が優先されないのです。「税務を通じて、医療業界に貢献したい」といったホスピタリティ精神を持った方に向いていると言えるでしょう。

そのためか、医療特化型の税理士法人は全般的に穏やかな風土があり、ホスピタリティ精神を持った税理士が多く働いています。

「バリバリ働いて、いち早くキャリアアップしたい」といった方よりも、「自分のペースで働きながら、しっかりとスキルを磨いていきたい」といった方に向いています。

病院やクリニックの経営者は医師であることが多く、多くの場合、「税務や経営に関することは専門家に任せて、目の前の患者さんの治療に専念したい」いう思いをもっています。

医療機関の経営者が税理士に全幅の信頼を寄せ、税理士が経営者のブレーンとして医療機関の経営を支えているケースも多くあります。これは、経営者と税理士の理想的な関係と言えるでしょう。

そして、これまで何度も申し上げてきたように、医療業界に特化してはいるものの、「業務内容が幅広い」という特徴があります。

つまり、医療特化型の税理士法人なら、専門性を高めながら、あらゆる相談に応じられるだけの幅広い経験を積めるということです。医療特化型の税理士法人への転職を希望する税理士がそれほど多くない今こそ、大きなチャンス。ぜひ、医療特化型の税理士法人への転職をご検討してみてはいかがでしょうか。