税理士法が8年ぶりに激変!2022年度税制改正の主なポイントを確認
2022年度税制改正では、税理士法が大きく変わりました。コロナを機にリモートワークなど会計事務所もDXを進めなくてはならなくなったからです。このほか、税理士試験の受験資格の緩和や質問検査権の拡大なども図られています。今回は注目すべき税理士法改正をピックアップしてお伝えします。
目次
2022年度の税理士法改正の背景
2022年度では、税理士法が8年ぶりに改正されました。次のような事情があったからです。
コロナで税務DXがより重要な課題に
税理士を取り巻く環境はデジタル化が進んでいます。e-Tax(国税の電子申告・納税システム)のほか、税務・会計業務はソフトで行われ、税務相談はオンラインで行われるようになりました。しかし、改正前の税理士法は相変わらず1つの事務所以外での業務を制限していました
2020年のコロナ禍を機に、多くの会計事務所はリモートワークが中心となりました。これに伴い、税務業界全体でデジタル化を推し進める必要が出てきました。
税理士受験生の減少と多様な人材の確保の必要性
少子高齢化を背景に、年々税理士受験生が減少しています。
税理士受験者数の減少は、税理士そのものの減少につながります。税理士制度の根幹を揺るがすわけです。その一方、税理士の活躍の場が広がり、多様な人材が求められるようになっています。
税理士による懲戒逃れ
脱税相談などで税理士法に違反する税理士が後を絶ちません。中には、登録抹消で処分逃れをする税理士もいました。税理士制度への信頼を維持するため、こういった懲戒処分逃れをけん制する必要があります。
税理士法改正のポイント①ICT化とウィズコロナ時代への対応
1つ目は、ICT化に伴う改正です。内容は次の通りです。
税理士業務の電子化の努力規定の創設
今回の改正で、税理士法に次の規定が新たに設けられました。
参照:税理士法|e-gov
この規定は、税理士業務での電子化を推し進める努力義務規定です。経済社会がデジタル化し、利便性を高めている今、税理士業務や納税環境も税理士自らが進んで電子化していかなければ、納税者の利便性は向上しません。
そこで、税理士・税理士法人が税務申告や財務書類の作成、会計記帳や税務相談において積極的にICT化できるよう、このような努力義務規定が設けられました。
税理士事務所の設置規制等の見直し
税理士法では、事務所設置について次のように規定しています。
参照:税理士法|e-gov
この条文自体は変わりません。ただ、事務所を規定する税理士法通達が変わりました。
従来、税理士の「事務所」を継続的な税理士業務の執行場所として定義し、事務所であるかどうかを次の点から判断していました。
- 外部に対する表示の有無(「○○会計事務所」といった看板の設置など)
- 設備の状況
- 使用人の有無、など
こうすることで税務当局や税理士会による指導を円滑に行い、使用人によるニセ税理士行為を防止していたのです。そのため、設備や使用人がいれば、二か所事務所として税理士法に抵触する恐れがありました。
しかしコロナ禍を機にリモートワークの必要性が生じ、旧来の事務所の捉え方では支障が生じるようになりました。そこで事務所の定義を「税理士業務の本拠」としてとらえて細かい条件を排除、税理士会などによる指導監督を行いやすいようにしていれば問題ない、とされたのです。つまり、主たる事務所以外で使用人の存在や設備があっても外部表示さえしなければ、2か所事務所とされることはなくなりました。
そのほかの改正
上記のほか、税務代理の範囲の明確化、税理士会等の通知等の電子化、電子記録媒体の見直しなどが行われました。
税理士法改正のポイント②税理士試験の受験資格の緩和
2つ目は、税理士試験の受験資格の緩和です。次の2つの改正が行われました。いずれも2023年度の税理士試験から適用されています。
会計科目の受験資格の撤廃
従来、税理士試験を受験するには、「学識」「資格」「職歴」のどれかの要件を満たす必要がありました。会計科目であっても税法科目であっても、です。
主な受験資格 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
学識 | 資格 | 職歴 | ||||
大学・短大・高専卒業者 | 大学3年次以上で62単位取得者 | 一定の専修学校の専門課程修了者 | 司法試験合格者 | 公認会計士試験短答式試験合格者 | 日商簿記1級または全経簿記上級の合格者 | 2年以上の一定の会計・法律事務経験者 |
履修科目要件あり: 法律学または経済学を1単位以上 |
今回の改正により、会計科目の受験資格が撤廃されました。つまり、大学1・2年次はもちろん、高校生でも受験できるようになったのです。
税法科目の受験資格の要件緩和(学識のみ)
上記の受験資格の表の「学識」の部分を見てみましょう。
これまで司法試験合格者と公認会計士試験の短答式試験合格者以外は、履修科目について要件がありました。法律学か経済学に関連する科目を1単位持っていなくてはならないというものです。このため、大学3・4年次以上の人が思い立ってすぐに受験できるのは、法学部か経済学部の在学生か卒業生に限られていました。
しかし、今回の改正でこの条件が緩和されました。この2つ以外でも社会科学に関連するものならよいとされたのです。社会科学の科目というと、法律・経済のほか、政治・行政・社会・経営・教育・福祉・情報なども含まれます。結果、税法科目の受験資格は、次のようになりました。
主な受験資格 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
学識 | 資格 | 職歴 | ||||
大学・短大・高専卒業者 | 大学3年次以上で62単位取得者 | 一定の専修学校の専門課程修了者 | 司法試験合格者 | 公認会計士試験短答式試験合格者 | 日商簿記1級または全経簿記上級の合格者 | 2年以上の一定の会計・法律事務経験者 |
履修科目要件あり: 社会科学(法律学・経済学を含む)を1単位以上 |
この改正で、より多くの人が税理士試験に挑戦できるようになったのです。
税理士法改正のポイント③税理士への信頼の向上
3つ目は、税理士制度への信頼向上に向けた改正です。内容は次の通りです。
元税理士への質問検査権の強化
参照:税理士法|e-gov
改正前は、脱税相談など税理士法違反の行為をしても、税務当局の質問検査権が及ぶのは現役の税理士と税理士法人だけでした。登録抹消した者に対しては及ばなかったのです。
しかし今回の改正で、税理士であった者に対しても質問または検査を行えるようになりました。この改正は2023年4月1日以降に行われる質問検査等について適用されます。
懲戒逃れの税理士の登録制限
参照:税理士法|e-gov
改正前は、税理士違反をしても登録抹消してしまえば、懲戒処分を受けることなく再登録することができました。見方を変えると、登録抹消した税理士に対して、税理士業務の停止や禁止の処分は効果を持たなかったのです。
今回の改正で上記のようになり、登録抹消をした元税理士に対しても懲戒処分を受けるべきであったことを決定できるようになりました。この決定は、次の規定と併せて効果を発揮します。
参照:税理士法|e-gov
参照:税理士法|e-gov
つまり、登録抹消後に第48条の決定がなされると、一定期間、税理士としての資格を持てません。再登録も制限されます。この規定は2023年4月1日以降の税理士法違反行為について適用されます。
このほか、今回の改正では、懲戒処分についての10年の除斥期間の創設なども行われました。
まとめ
今回お伝えした内容は、ごく一部に過ぎません。ほかにも改正項目があります。日常の税理士業務では、なかなか税理士法を確認する機会がありませんが、税理士を律し、守り、税理士制度への信頼を担保するのは、ほかならぬ税理士法です。ときどき確認しておいた方がよいでしょう。
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