一般企業の税理士は会計事務所とどう違う?メリット・デメリットも解説

一般企業の税理士は会計事務所とどう違う?メリット・デメリットも解説

税理士の資格を保有している人は、会計士・税理士事務所で働いている人ばかりではありません。
税理士は1人ひとり、それぞれ多様なキャリアの歩み方があるのです。

では実際に、どのような働き方があるのでしょうか?

鈴木 まゆ子

鈴木 まゆ子

税理士・税務ライター

2000年中央大学法学部法律学科卒業。㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て、2012年税理士登録。税金の正しい知識を広めるべく、WEBを中心に多数の記事執筆・税務監修を行う。分かりやすい解説に定評がある。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。

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税理士のキャリアパス

税理士のメインのキャリアパスといえば、税理士法人または会計事務所で働くことでしょう。


ただ、このメインの道でさえも、求められる能力や培われていくスキルには大きな違いがあります。
たとえば、Big4と呼ばれる大手税理士法人で働いた場合、ある分野のスペシャリストの道を歩むことが多いようです。

一般的に、所属先が大手になればなるほど、仕事は細分化されるので、1つのことを掘り下げるキャリアになることがよくあります。M&Aに携わる部署に配属されれば、日々、M&Aの知識と経験を培い、M&Aのスペシャリストになっていくことでしょう。


一方で、中規模または小規模の会計事務所に転職した場合、クライアントは個人事業主や中小企業になることが一般的です。歯科医、飲食店、フリーランス稼業など、クライアントの業種・職種もさまざまなので、求められるスキルも多岐にわたります。そのため、大手のように1つの道のスペシャリストというよりも、全方位型のゼネラリストの道を進むことが多くみられます。

ほかにも、「特化型の会計事務所」というものがあります。
これは中小の会計事務所で「資産税」や「SPC(特別目的会社)」に特化している事務所のことです。
その名のとおり、特化型なので大手と同様にスペシャリストをめざすことになります。
大手と違って、掘り下げる分野が明確なので、「自分が本当にその分野のプロになりたいか」を転職前に考える必要があるでしょう。

このようにメインの道も細分化することができます。
しかも、税理士はこれだけでなく、さらに幅広いキャリアパスも用意されているのです。

<ココまでのまとめ>

・税理士のメインのキャリアは税理士法人または会計事務所。
・そこでも大手、中小、特化型など、さまざまなキャリアパスがある。

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税理士は一般企業で働くことも可能

税理士は一般企業で働くことも可能です。


一般企業では経営企画部門や経理部門に配属されることが一般的で、最も多いパターンである経理部門では、各種決算業務や有価証券報告書の作成を中心に行うことになるでしょう。
税務だけでなく、幅広い分野のスキルを身につけたいと考える人は、税理士法人や会計事務所ではなく、一般企業を選択するようです。

収入は、企業規模によって異なることが多いといわれています。
たとえば、一部上場企業の場合は高度な税務業務を行っていて、税理士として入社する場合はそれらを担当することになるので、収入面でも厚遇されることがあるのだとか。
中小企業の場合は、税理士法人や会計事務所と比べて、とりわけ高収入というわけではなさそうです。

税理士が一般企業で働く魅力の1つは、税務のプロフェッショナル以外の道で活躍するプロフェッショナルと共に働くことができる点でしょう。
また、福利厚生やワークライフバランスを重視して、税理士法人ではなく一般企業に転職するという人もいるようです。


ベンチャー企業の場合はリスクがあるものの、税理士がCFOなどの役員クラスで転職するというケースも実際にあります。
「自分は一社員では終わりたくない。経営陣に名を連ねたい」と考える人にとっては魅力的な選択肢かもしれません。

<ココまでのまとめ>

・一般企業は税務だけでなく幅広い分野のスキルを身に付けたい税理士向け。
・ベンチャー企業では役員待遇で転職できるケースも。

一般企業でのキャリアパス1:国内企業

ここから、一般企業での税理士のキャリアパスを考えていきましょう。

1つ目は、国内企業です。社内税理士といっても、会社の一社員として働くため、経理職となります。
「え、経理?せっかく税理士になったのに?」と思うかもしれません。
しかし、以下を見ればわかるように、経理業務は税務の知識が必要です。


・記帳業務
・給与計算
・年末調整
・現預金や固定資産、償却資産の管理
・領収書や請求書の管理・作成
・買掛金・売掛金の管理
・決算および税務申告・各種税金の納付

記帳の仕訳は、税務の知識がなければ正しく行えません

飲食費一つとっても、福利厚生費か会議費か接待交際費かでは、大きく意味が違います。


年末調整は、税制改正で2020年分以降、かなり複雑になりました。領収書や請求書の扱いは、2022年1月施行の改正電子帳簿保存法や2023年10月から始まるインボイス制度により、難しくなります。

「顧問税理士に相談すれば解決する」と思うかもしれません。しかし、顧問税理士が巡回監査に来るのは多くても月1回です。一方、経理業務は日々行われます。そんな現場で生じた問題をすべて顧問税理士に相談するのは至難の業です。


現場で生じた問題を一つ一つ解決する存在として、社内税理士が求められるのです。

<ココまでのまとめ>

・国内企業での経理業務には税務の知識が必要
・現場で常に対応してくれる税理士は企業のニーズがある

一般企業でのキャリアパス2:外資系企業

2つ目のキャリアパスは、外資系企業です。
外資系企業の経理も、先ほどの国内企業と同じ業務を行います。これに加え、海外とのやりとりに関する経理も行わなくてはなりません。

海外に本社がある企業だと、転勤や出向で役員や従業員の給与や支払がどうなるかの知識が必要となります。
非居住者の扱いを知らなければ、正しく処理できません。


また、海外取引の消費税の扱いは、判断が難しいものです。子会社との取引があるなら、移転価格税制が問題になります。
このほか、決算期や会計基準、通貨の違いなども考慮しなくてはなりません。

外資系企業の業務を行うには、英語のスキルが求められます。ですが、経理職に限っては、英語以上に日本の税法に関する深い知識が必要です。大変ですが、非常にやりがいがあります。独立後、経験が活きるかもしれません。

<ココまでのまとめ>

・外資系企業の経理は国内企業以上に難しい
・外資系での経理は英語以上に日本の税務の知識が必要

一般企業でのキャリアパス3:金融機関

3つ目のキャリアは金融機関での仕事です。
金融機関は現在、「預金・融資・為替」という伝統的な3大事業にこだわらず、積極的に新たな事業を行っています。

最近は、少子高齢化に対応すべく、相続業務や事業承継業務に注力しています。
ここで求められるのが資産税の知識です。相続業務には、相続税対策も含まれます。
相続税対策は巷で注目を集めるような手法ほど、実は注意が必要です。

相続税対策の1つとして有名なものに生前贈与があります。しかし、やみくもに財産をあげればいいわけではありません。
子に贈与しても3年以内に亡くなれば、贈与した財産にも相続税がかかります。


また、「生前に賃貸不動産を買って相続税を圧縮する」という手法も注目を集めました。
しかし、こちらも注意が必要です。相続税法に関する深い理解がなければ、総則6項で否認されるおそれがあります。

税務の知識のある税理士が金融機関内にいれば、長期的な視点から最善のアドバイスを行うことができます。
リスクを避け、価値のある提案を行えば、顧客だけでなく金融機関にとってもメリットがあります。

<ココまでのまとめ>

・金融機関は相続や事業承継など新規事業に注力している
・金融機関の顧客への提案は、税務の知識で価値が高まる

一般企業でのキャリアパス4:コンサルティングファーム

4つ目のキャリアがコンサルティングです。
コンサルティングで税務の知識を求めているのは、金融機関だけではありません。コンサルティングファームでも求められます。

コンサルティングファームの業務には、企業や事業のM&Aや財務改善、企業再生支援や企業の価値評価などがあります。
M&Aには組織再編税制の知識が求められます。
財務改善や企業再生、価値評価では、会社の財務諸表を読み解く能力が必要です。


人事でのコンサルティングならば、報酬体系の見直しとして、確定拠出年金の導入や退職金制度の活用を提案することもあるでしょう。ここでも税法上の扱いを知らなければ、価値ある提案ができません。

コンサルティングの意味は、クライアントの課題を解決することです。
課題解決が絵に描いた餅に終わらず、現実的に意義あるものとなるためには、税務や会計から全体像を見直す目が必要となります。

<ココまでのまとめ>

・コンサルティングはM&Aや企業再々、人事の見直しで税務の知識が必要
・税務の知識があれば、クライアントの課題解決が地に足がついたものとなる

会計事務所との違いは?一般企業で働くメリット・デメリット

一般企業は、会計事務所とどう違うのでしょうか。ここで一般企業で働くメリット・デメリットを見てみましょう。

一番のメリットは、極端な繁忙期に振り回されない点です。
会計事務所だと、年末調整や確定申告の時期は忙しく、帰宅が深夜になることがあります。
このほか、3月決算が集中していれば、5月も残業せざるを得ません。


一方、一般企業なら、そのようなことはありません。おおむね定時で帰宅できます。
また、「福利厚生が充実している」「プライベートの時間をキープできる」といった点もメリットです。

ただし、デメリットもあります。その1つが、税務業界の情報に疎くなるリスクです。
会計事務所だと日々、幅広い税務の情報に触れます。同僚や上司、顧客や同業者との会話や事務所に置いてある専門雑誌は、常に「税務」です。結果、税務業界の動きに敏感にならざるを得ません。


一方、一般企業だと、話すことや目に触れるもの、耳に入るものが常に税務トピックだとは限りません。
そのため、業務に関係のない税務には疎くなるおそれがあります。
また、「会社の業務に追われて税務の勉強ができない」「一般的な税理士にコンプレックスを感じやすい」などもデメリットです。

<ココまでのまとめ>

・一般企業で働くメリットは「ワークライフバランスを保てる」
・ただし、税務のニュースに疎くなるといったリスクもある

満足するキャリアパスをつかむには?

これまでに説明したとおり、税理士にはさまざまなキャリアパスがあります。
でも、その人が歩むことができるキャリアパスは1本の道でしかありません。


その道は「違う」と思えば後戻りしたり、横道に入ったりすることができますが、成長を続けるためには明確に定めたキャリアの道をコツコツと歩み続けることが不可欠でしょう。

では、どうしたらキャリアの道を定めることができるのでしょうか?
それは、ビジョンをもつことです。税理士試験の勉強をしていた時代に「自分は税理士試験に合格したら、こんな税理士になるんだ」と夢を見たことが誰しもあったと思います。いま、その夢に近づいていっていますか?


その夢と違うほうへ行っていることが悪いということではありません。しかし、もし、何も考えることなく現状に流されているのだとしたら、それは一度考え直してみたほうがよいかもしれません。

ビジョンとは、自分のなりたい未来の姿をイメージすることです。
「海外のクライアントとも仕事をする税理士になりたい」「個人に感謝される税理士になりたい」など、人によってそのイメージはさまざまでしょう。だからこそ、自分が歩むべきキャリアの道が見えてくるのだと思います。


この機会に一度、税理士としてのキャリアパスをあらためて考えてみませんか?

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