会計事務所の「製販分離」税理士法違反のリスクとは?名義貸しや非税理士業務に注意
多くの会計事務所や税理士法人が導入を進めている「製販分離」。
記帳代行や申告書作成などを「製造(作業)」部門のスタッフに任せ、税理士は「販売(月次訪問など)」に専念するという手法です。
会計事務所の作業効率を上げ、生産性を飛躍的に高めるメリットがある一方、税理士法に抵触するというリスクもあります。特に「非税理士による税務業務」や「名義貸し」などは、税理士業務の継続に支障をきたしかねません。
本記事では、製販分離の意義とメリット・デメリット、税理士法上のリスクと注意点についてお伝えします。
目次
会計事務所における「製販分離」とは?背景も分析
まず、会計事務所や税理士法人での「製販分離」とはどのようなことなのか、そしてその背景にあるものを確認していきましょう。
製販分離とは何か
会計事務所や税理士法人における製販分離とは「申告書などの税務書類の作成業務と顧問先の巡回監査業務を分けて税理士業務を進めること」を言います。本来、申告書などの作成業務と顧問先の巡回監査業務は同一の税理士が行うものです。というのも、税理士法第2条第1項で税理士には次の独占業務が3つ、定められているからです。
- 税務代理...税務官公署への申告等や調査・処分について納税者の代わりに主張・陳述すること(税務調査の立ち合いなど)
- 税務書類の作成...確定申告書などの税務書類を納税者の代わりに作成すること
- 税務相談...所得額などの課税標準額や税額の計算について、納税者からの相談に応じること
これら独占業務は一見、別々ですが、それぞれ密接にかかわっています。巡回監査で顧問先と会話すれば税務相談が生じます。会話から決算書・申告書を適切に作成するヒントも得られます。提出した申告書に疑義があるからこそ税務調査が行われます。日頃、顧問先との会話で事情を把握しているからこそ税理士の独占業務をきちんと行えるのです。
しかし「製販分離をする」ということは、これらの業務をあえて切り分け、まったく別々に行うことを意味します。
製販分離の背景
税理士業そのものを考えると製販分離は難しいものです。しかしそうせざるを得ない事情が存在します。以下の通りです。
人手不足
税理士業界における慢性的な人手不足が最大の要因です。特に、実務経験が豊富で顧客対応もできる有資格者については、年々採用が難しくなっています。
そのため、限られた有資格者のリソースを顧客対応と高度な税務判断に集中させ、それ以外の入力作業などを事務作業の得意な有資格者や未経験者、パートスタッフに任せるようになってきています。
クラウド会計などの普及
クラウド会計ソフトや証憑をスキャナで読み込ませることによる自動仕訳などが普及したことも一因です。
定型的な業務を標準化・マニュアル化しやすくなったため、専門知識が少ないスタッフでも一定レベルまでは記帳やデータ入力を担い、決算書・申告書の作成作業を担える環境が整いました。
会計事務所の規模拡大
マニュアル化による事業拡大や業界内でのM&Aにより、大規模化する税理士法人が増えています。スタッフが数十人、数百人規模の組織になると、個人の裁量に任せるのに限界が生じます。1人で巡回監査での相談業務と申告作業を担うのは非効率的です。また、属人性が高いままだと、成果物の品質にバラつきが出ます。
製造部門と販売部門を分離させて業務フローを統一すれば、品質を組織全体で均一化することができるのです。
製販分離のメリット
製販分離が順調に進めば、次のようなメリットを会計事務所にもたらします。
業務を効率化できる
作業を分業化することで、スタッフそれぞれが特定の業務に特化できます。結果、処理スピードが向上し、提供するサービスの質も向上します。
また、作業マニュアルの整備も行えば、個別の質問や社内研修の時間を減らすことができます。つまり、新人教育の時間を短縮できるのです。最終的には、事務所全体の処理件数を増加させても一定品質のサービスを維持し、かつ生産性を向上させることができるのです。
残業を減らせる
製造部門、つまり決算書や申告書の作成などの部署が作業を平準化して進めるということは「個別の担当者がすべてを抱え込まなくていい」ということになります。そのため、年末調整や確定申告の時期、3月決算期といった繁忙期における業務の偏りが解消されやすくなります。
最終的には事務所全体の残業時間を削減しやすくなります。残業を減らせれば、スタッフの定着率向上にもつながります。
強みを活かせる
「人と話すのが得意で提案力がある人は販売部門」「コツコツと正確なデータ処理をするのが得意な人は製造部門」などと、スタッフそれぞれの適性や強みを活かした適材適所の人員配置が可能になります。強みや得意を活かせれば、仕事は楽しくなるものです。先ほどの残業時間の削減とも併せれば、会計事務所ならではの「人が辞める」問題の解決につながります。
製販分離のデメリット
一方で、製販分離には、次のデメリットも存在します。
縦割りゆえに他部門の状況が見えにくい
製造部門と販売部門が完全に分離すると、お互いの業務の進捗や大変さが見えにくくなります。
製造部門は、顧問先の顔や声、今抱える問題や事業などの特徴を知らないままに作業をこなすことになります。一方、販売部門は、記帳や申告の状況を配慮せずに顧問先対応をすることになります。結果、次のような状況が発生するおそれがあります。
- 勘定科目が顧問先の実態に見合っていないまま、記帳や決算を行う
- 減価償却資産の償却方法の選択や消費税の課税方法の判断を誤る
- 直近の決算や申告の状況を正しく把握せずに、顧問先に無用な提案をしてしまう
顧問先の相談に応じたり提案できたりするのは、自ら記帳や申告作業を行い、五感を通じて顧問先の状況を把握しているからです。また、顧問先ごとに適切な決算書や申告書を作成できるのは、定期的に顧問先と顔を合わせ、会話を通じて状況を把握しているからです。
顧問先は業種や家族構成によっての傾向はあるものの、実際の内容は個々に異なります。相互に作用し合って初めて質の高い申告と税務相談は実現できるのですが、この2つを分離してしまうと効率化が進む半面、真の意味での品質維持が難しくなります。
連絡ミスのリスク
製販分離とは言っても、業務の受け渡しはあります。ここで懸念されるのが伝達もれや認識の齟齬といった連絡ミスです。特殊な経費の扱いといった顧客から聞いた特別な事情が販売担当から製造担当へ正確に伝わっていないと、間違った申告書が作成されてしまうおそれがあります。
このほか、巡回監査では顧問先と対話することで、顧問先ならではの特徴や雰囲気を言外で感じることがままあります。しかし製販分離をしていると、この感じ取った情報が製造部門に伝えられないため、記帳の際の判断の誤りにつながるおそれがあります。
税理士法違反のリスク
製販分離の状況によっては、税理士法に違反するリスクがあります。効率化を最優先して分業化が行き過ぎると、有資格者の目が行き届かなくなるためです。結果、知らず知らずのうちに、税理士法に抵触するおそれがあります。
税理士法に抵触するリスクとは
製販分離での税理士法違反リスクは、主に次の3つです。
無資格者による税務申告・税務相談
税理士法第52条では、税理士資格を持たない者が、税務代理や税務書類の作成、税務相談を行うことを禁じています。また、税理士法第48条の15は、税理士法人が税理士でないものに税理士業務を行わせることを禁じています。
しかし製販分離が行われれば、この管理が難しくなります。製造部門の無資格スタッフが顧客からの税務相談に応じたり、資格のないスタッフがゼロから自分で考えて申告書を作成したりする可能性も出てくるからです。
会計事務所や税理士法人の上層部が、どこまで厳格に管理できるかが問われます。
名義貸し
税理士法第37条の2では、税理士が他人に自己の名義を利用させることを禁止しています。
製造部門の無資格者が作成した決算書や申告書に対して、販売部門の税理士があまり内容を精査せず、ただ機械的に署名しただけの場合、非税理士に対する名義貸し行為にあたります。名義貸しは業務停止や税理士登録抹消など、懲戒処分としてはかなり重い扱いとなります。
使用者による監督責任
税理士法第41条の2では、税理士に対し、スタッフの業務に対する監督義務を課しています。 税理士業務の適切な遂行に欠けるところがないようにするためです。
製販分離が進めば、物理的・心理的に税理士の目が行き届かなくなりがちです。税理士がスタッフの業務をきちっと管理し、積極的に関与して申告書の作成や税務相談に責任を取ったと言える状況でなければ、この監督義務責任を果たしていないことになります。
まとめ
製販分離は、人手不足を解消し、会計事務所の生産性を高めるのに有効です。スタッフのワークライフバランスの質を高めることにもつながります。
しかしその一方、適切な申告作成や相談対応・提案ができなくなるおそれがあります。また、使用者である税理士の管理が行き届かなければ税理士法違反になりかねません。
これから製販分離の導入を検討している、あるいはすでに運用している事務所は、「業務フローの中に税理士のチェック機能が確実に組み込まれているか」「スタッフが独自の税務判断をしていないか」を確認するとよいでしょう。
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