新・相続時精算課税制度を使う前に...「生前贈与加算されない贈与」4つを確認
2023年度税制改正で贈与税の制度が変わりました。今、注目されているのは相続時精算課税制度です。新設された110万円の基礎控除は生前贈与加算の対象にならないこともあり、相続時精算課税制度の積極活用を検討する会計事務所もあるようです。しかし、本当に大丈夫でしょうか。今回、相続時精算課税制度の内容をおさらいするとともに、生前贈与加算の対象にならない贈与税の制度を4つ、お伝えします。
目次
「2024年から相続時精算課税制度を使うべき」と言われる理由
「うっかりミスが怖くて使えない」と言われていた相続時精算課税制度。今年になってから、急に活用を勧める声を耳にするようになりました。背景には、2023年度税制改正で次の2点の変更が行われたためと見られます。なお、いずれも2024年1月1日以降の贈与から適用されます。
相続時精算課税制度に「年110万円基礎控除」が新設
1つ目は相続時精算課税制度の控除です。相続時精算課税制度には以前から、2500万円の贈与税の特別控除があります。「累計2500万円まで贈与されても贈与税はかからない」というものです。非課税の枠が大きく一見よさそうですが、次のような難点があり、ほとんど活用されませんでした。
- 相続時精算課税制度をいったん選択した間柄では二度と暦年課税制度の適用はない
- 相続時精算課税制度を選んだ後は、少額の贈与でも贈与税の申告が必要
- 相続時精算課税制度の対象となった贈与財産はすべて相続財産に持ち戻す
しかし、国としては、資産の移転の時期に関係なく課税できる相続時精算課税制度を活用してほしいのが本音です。そこで、新たに年110万円の基礎控除を設けました。この基礎控除の特徴は次の3つです。
- 年110万円以下の贈与なら申告が不要
- 年110万円以下の贈与財産については贈与税がかからない
- 年110万円以下の贈与については相続財産への持ち戻しが不要
暦年課税制度だと、死亡間際に贈与をすると、年110万円以下であっても生前贈与加算の対象になります。つまり相続税がかかってしまうわけです。
しかし、改正後の相続時精算課税制度なら、年110万円以下の金額に抑えれば、死亡直前の贈与であっても相続財産に加算しなくていいということになります。この違いを踏まえ、一部の会計事務所では「相続時精算課税制度をクライアントに提案しようか」と検討しているようです。
暦年課税制度の生前贈与加算の期間が「3年→7年」に
2つ目が暦年課税制度における生前贈与加算の対象期間の変更です。死亡日以前3年間に相続人が被相続人から贈与された財産については、相続財産に加算することとなっていました。これが生前贈与加算ですが、この加算対象期間が「死亡日以前3年間」から「死亡日以前7年間」になりました。
ただし、死亡日以前7年間の贈与財産が全額、相続財産に持ち戻されるわけではありません。贈与の時期によって、次のように加算対象額が変わります。
- 死亡日以前3年間:贈与財産すべてが加算対象
- 死亡日以前4年から7年の間:「この期間に贈与された財産-100万円」が加算対象
相続時精算課税制度のリスクを再確認
この2つの改正により、相続時精算課税制度に活用の余地を見出す会計事務所が増えました。しかし、依然として注意すべき点があります。次の通りです。
年110万円を超えたら持ち戻しの対象
年110万円以下の基礎控除で贈与税も相続税もかかりません。が、言い換えれば、110万円を少しでも超えたら贈与税の申告と納税が必要です。また、超えた部分は相続財産に持ち戻すこととなります。
二度と暦年課税制度に戻れない
年110万円の基礎控除に魅力を感じて相続時精算課税制度選択届出書を提出したくなるかもしれません。ここで覚えておきたいのは「いったん選択したら二度と暦年課税には戻れない」ということです。
贈与された額が年110万円を超えていたにもかかわらず無申告であれば、10年たっても贈与税の申告が追及されます。もし申告するなら期限後申告となるので、特別控除額2500万円を使い切っていなくても、税率20%の贈与税を納めなくてはなりません。
しかし暦年課税制度なら、無申告でも5年あるいは7年で時効が成立します。無申告を推奨するわけではありませんが、相続時精算課税制度を選択した後の贈与は10年経っても申告や納税を追及される点は意識しておきたいものです。
贈与財産の値下がりリスク
相続時精算課税制度を選択した贈与は、贈与時の価額で相続財産に持ち戻します。見方を変えれば、値上がり確実な資産をこの制度であらかじめ贈与すると、相続時と贈与時の価額の差額の分だけ相続税を抑えられるわけです。
しかし「値上がり確実かどうか」「贈与者がいつ亡くなるか」は予測できません。つまり、値下がりリスクがあることも意識しておく必要があります。
生前贈与加算リスクを下げる暦年課税2つのポイント
暦年課税制度による生前贈与加算の期間が3年から7年に延びると、生前贈与で相続税を抑える効果が減るかのように感じます。しかし、次の点を意識すれば、暦年課税でも生前贈与加算リスクを最小限に抑えることができます。
孫への贈与なら生前贈与加算の対象外
生前贈与加算の対象となるのは、あくまで相続や遺贈などで財産を取得した人に限られます。死亡日に近い期間の贈与でも相続人ではない孫が贈与財産を受け取るなら、生前贈与加算の対象ではありません。ただし、孫が代襲相続や養子縁組で相続人となっていたり、遺贈で何らかの財産を受け取ったりしたのなら、加算対象となります。
贈与税の非課税措置4つを活用する
以下の制度を活用して贈与すると、生前贈与加算の対象期間であっても持ち戻しは不要となります。
教育資金の贈与税の非課税措置
教育資金の贈与税の非課税措置で贈与された財産のうち、非課税の適用を受けた金額は生前贈与加算の対象外です。
ただし、管理残額の扱いについては注意しなくてはなりません。制度の創設当初、相続税は課さないこととされていました。しかし、近年の税制改正で相続税の対象とされるようになりました。課税する範囲も2019年度・2021年度・2023年度それぞれの税制改正で異なります。
参照:祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし(令和5年5月)|国税庁
結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置
結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置で贈与された財産のうち非課税の適用を受けた金額は原則、生前贈与加算の対象から外れます。ただしこちらも、相続開始時点で管理残額があるなら、その部分は相続税がかかります。
住宅取得等資金の贈与税の非課税措置
住宅取得等資金の贈与税の非課税措置で贈与された財産のうち非課税の適用を受けた金額は、生前贈与加算の対象から外れます。
贈与税の配偶者控除
贈与税の配偶者控除の特例を受けているか受けようとする財産のうち、配偶者控除の額に相当する金額は、生前贈与加算の対象とはなりません。
相続税対策は慎重に検討を
2023年度税制改正で贈与税のありようが大きく変わりました。ただ、税制が複雑になった分、相続税の生前対策も難しくなりました。相続時精算課税制度の年110万円の基礎控除はメリットが大きいように見えますが、相続税申告の際、抜け漏れが生じやすいというリスクは変わらず存在しています。さらに、年110万円の基礎控除は受贈者1人あたりの金額です。複数の親や祖父母から贈与されても、基礎控除額が増えるわけではありません。
対策を考えるならこれまで以上に制度を調べ、あらゆるシミュレーションをしていく必要がありそうです。
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